月森 久江:監修 講談社 定価:1200円+税 (2009年12月)
私のお薦め度:★★★★☆
自閉症児にとって、小学校時代は黄金期と言われます。親にとっても、本人にとっても、ですね。
我が家でも、それまで自閉の症状オンパレードで、一刻も目が離せなかったのが、次第に指示も通る
ようになってきて、落ち着いてきたのを思い出します。それまでの療育の成果に加え、保育園や幼稚
園と違って小学校生活が授業を中心で構造化しやすいというのもあるのでしょうね。
さて、そんな子どもたちも、彼らなりに自我が芽生えてきて、自閉症児にとっての山と言われる思春
期を迎えます。障害を持たない子どもたちにとっても難関の思春期の中学校生活です。友達関係も複
雑になり、教科の先生も毎時間変わります。
授業内容も、それまで記憶力・計算力中心であったものが、応用力・思考力を要求されるようになっ
てきます。社会性や想像力に苦手な部分を持つ自閉症児にとっては、たとえ知的障害を持っていなく
ても授業についていけなくなることもあります。漢字博士だけでは、物語の背景までは読み取れなく
なっていきますね。
本書は、そんな彼らが、クラスの中で疎外されたり、自尊心を傷つけられることなく、学校生活を送
れるようにとの思いで書かれた一冊です。監修にあたられているのは、実際に中学校の通級指導教室
を担任されている月森先生ですので、理論というよりは、現場での実践によるヒントが前面に出てい
る本となっています。
構成は、講談社の「健康ライブラリー イラスト版」シリーズで、このシリーズには以前会報でも紹
介した佐々木正美先生監修の「自閉症のすべてがわかる本」などもありますので一度はごらんになっ
た方も多いと思いますが、各ページ見開きでイラストも大きく、内容もヒントを「対応例」として簡
潔に述べています。
ですから、読み通すだけでしたら30分ほどで読み終えることはできると思います。あとは、そのヒン
トを、いかに目の前の子供たちへの教育に活かしていくか、ですね。
特に本書は、通級指導教室の先生が監修されただけあって、主に通常学級や通級指導教室に通う知的
障害を持たないか、あるいは軽度の生徒たちへの、授業を通しての指導に多くのページをさいていま
す。
例えば、「本人が落ち着く環境をつくるようにする」の項目では、「必要のないものは覆って隠す」
や「音や光、温度も調整する」などは、聞いたことがありますが、教室での席の場所についても触れ
ています。
対応例 「指導しやすい席」
黒板に視線が向けやすく、刺激の少ないのは教室中央の1~2列目。
教師に近いので指導もしやすい。緊張しやすい子は、最前列よりも
2列目のほうが落ち着きやすい。前に座る子をモデルにすることもできる。
また、その席決めの際にも、
「小学校では・・・教師が決定する」
集中しにくい子は、教師の目が届きやすく、まわりの子どもの動きに左右されにくい、
最前列の真ん中などに座らせることが多い。
「中学校では・・・席を選ぶときは本人と話しあう」
座席の周辺の状況に左右されやすいということを、本人にも自覚させる。
集中できる席、自分が落ち着ける席を選ぶようにする。
このように、座席ひとつにしても、中学校になれば本人の自覚とプライドを尊重し、そのうえで落ち
着ける環境を作っていくことの大切さが述べられています。
他にも障害の特性を理解したうえでの、授業や家庭学習、テスト勉強の仕方なども載っているので参
考にできると思います。
そして、本書の最後は将来に向けて「進路選びは自立への第一歩」です。高機能な子どもたちを対象
とした本ですので、ここでは「本人が納得するまで話し合う」「本人が決定することがその後の糧と
なる」として、その決断を支えることが大切だとしています。
ただし、ここでの選択肢としては、高等学校・専門学校・サポート校・特別支援学校などが挙げられ
ていますが、特別支援学校については、「希望すればだれでも入れるわけではありません。療育手帳
の交付や医師の診断書を入学要件としていることもあります」と書かれているように、岡山でも療育
手帳を持っている生徒が優先されるようですので、本人に選択肢を示すときには注意をしていただけ
たらと思います。
では、本書のラストの対応例です。学校を卒業して、社会人として歩みだすためには
「子どものころから積み重ねが大事」と結ばれています。
「子どものころから継続的支援を受け、自分の特性と課題への対処法を
学んでいくことが、将来につながります」
対応例 「社会のルールを守る」
たとえいやなことでも、やらなければいけないことがあると教える。
精神的耐性が弱く、やりたくないことから逃げる傾向がある。
学校でのルールを守ることから、社会のルールも守ることを教える。
困ったとき、周囲の人に助けを求める方法を学ぶことも、対処法のひとつ。
こんな、ヒントがいっぱいの本書ですが、あくまでイラスト版の入門書ですので、これ一冊に頼るこ
となく、他の専門書も続けて読んでいただきたいと思います。
(「育てる会会報 146号
」 2010.7)
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目次
まえがき
【知ってほしい】支援のためには発達障害全般の理解を
1 中学生のころはアイデンティティに悩む
【ケース】友人とのかかわり方がわからず孤立するCくん
【ケース】教室になじめず、登校をしぶるDくん
【ケース】ひきこもって夜型生活になったEさん
【思春期】心身に大きな変化が起こる時期
【思春期】他人と違う対応を受け入れられない
【アスペルガー症候群】周囲と自分の違いに気づきはじめる
【AD/HD】ひんぱんに叱られ続けて自信を失う
【LD】答えがわかっていても、正確に書くことができない
【二次的な問題】子どもを取り巻く環境が引き起こす
【コラム】成功体験を増やし、自尊感情を育てる
2 大人が落ち着くと子どもが落ち着く
【保護者の気持ち】「わが子がわからなくなってきた」という不安
【子どもの気持ち】親の不安は子どもにも伝わる
【教師の気持ち】教師にも大きな重圧がかかってくる
【家庭内の協力】家庭内の協力で落ち着きを取り戻す
【対応】親は子どもの障害をどのように受け止めるのか
【対応】ほかのきょうだいにも配慮する
【対応】家庭内だけでなく、地域で子どもを支える
【学校との連携】教師との信頼関係で親は落ち着く
【対応】子どもがほっとできる場所をつくる
【対応】教師のクラス運営に賛同して後押しする
【コラム】ねぎらいの言葉が親、教師を支える
3 行動をみるだけでなく背景を考える
【支援の目的】将来、社会に出るためのスキルを学ぶ
【問題の背景】目に見える問題は氷山の一角
【問題の背景】つまずきの理由は本人にもわからない
【問題の背景】観察することで背景がみえる
【支援の基本】3つの学習スタイルが子どもを伸ばす
【コラム】将来の夢、希望の進学先が学習意欲につながる
4 勉強、人づきあいの上達が自己評価を高める
【授業】指示・課題はスモールステップにわける
【家庭学習】勉強の習慣化は親のはげましが有効
【テスト】予定表をつくれば、計画的に勉強できる
【学校での対応】本人が落ち着く環境をつくるようにする
【いじめ】自分から相談できる人をみつける
【孤立】自分のよさに気づかせて人とかかわらせる
【けんか】自分をコントロールする方法を学ばせる
【集団行動】友だちの行動をみて、社会のルールを身につける
【性の問題】してよいこと、よくないことを考える
【コラム】休みの日の過ごし方を身につける
5 進路選びは自立の第一歩
【相談】特別支援教育で子どもの能力を引きだす
【相談】専門機関に子どもへの対応を相談する
【進路選択】子どもに幅広い選択肢を示す
【進路選択】進学先は、まず見学してみる
【進学後】進学後も継続的に支援できるようにする
【将来】自立体験を重ね、生活術を学ぶ
【将来】社会で必要な対処法を身につける
【コラム】就労のためのサポートも広がっている