『 私の歩んだ 児童精神医学の道 』
門 眞一郎:著 星和書店 定価:2700円+税 (2025.10)
私のお薦め度:★★★★☆
これまで育てる会で講演会や連続講座などで大変お世話になっています門 眞一郎 先生の最新刊です。
と、言ってもこれまでの先生の著書や訳書とはひと味違って、書名からお分かりのように門先生が歩まれてこられた「児童精神医学」の足跡を巡る一冊です。
ですから、今月はいつもの自閉症児の子育てへの参考にしてほしいノウハウや対応法の“お薦め本”というよりも、代表の今月の巻頭文と同じく、私の読書感想文、読んで良かった私のお薦め本となっていますのでよろしくお願いします。
私が今まで読んできた偉人の伝記や自伝などは、何かを成し遂げるために、コツコツと、あるいは波瀾万丈に努力してきた、そんな物語がほとんどで、それが故に感銘をいただいていたように思います。
目の前の高い山の頂上を目指して、凡人の私には手の届かないような足取りで登っていくクライマーみたいな姿ですね。一筋の道をひたすらたどる修験者か仙人さんみたいな感じです。
でも、本書の門先生の歩んでいる姿はちょっと違っています。
まずは、門先生が“この指とまれ”と唱えられた、本書の冒頭の「自閉スペクトラム医師宣言」を紹介します。
ここに一つの宣言文がある。医師による宣言、それも発達障害を診る精神科医師による宣言、しかも自分も自閉スペクトラム上にあると認識している精神科医師による宣言である。
自閉スベクトラム医師宣言(Declaration as a Doctor on the Autism Spectrum:DDAS)
私たちは、この宣言を発表する自分自身が自閉スペクトラム(以下AS)の特性を有しており、AS上にいるすべての人々と連帯することを誇りに思います。私たちの目標は、AS上にいる人たちが、適切に理解され、必要な支援を受け、その個性を自由に発揮し、充実した生活を築くことができるようになることです。
私たちは、自らの経験を通じて、ASが少数派の単なる特性であり、その特性に対する多数派からの誤解や偏見が、本来の個性や能力を阻害してしまうことを痛感しています。そのために、私たちは自分たちの経験を活かし、AS上にいるすべての人々と連帯し、その声を強く反映させることを約束します。 (以下略)
そんな、ASと自ら宣言された先生、やはり先着1名様(脳ミソのキャパは先着1名様で全画面表示! :ニキ リンコ)の特性をお持ちなのか、本書でも各章ごとにその折々、取り組まれるテーマが次々と変わっていかれます。
不登校への対応から児童虐待、薬物療法批判、TEACCHプログラムの話から現在のPECS、そして西陣麦酒まで・・・いわば、生涯をかけて高い山に登ろうとするのがこれまでの伝記だとすると、本書は目指す山の頂に達する度に、次に登る山、登らなければならない山が見つかり、山の稜線を歩いていくような、そんな一冊だと思いました。
どの山一つをとっても、私などではたどり着けない頂上なのですが、先生はあっさりと次のテーマを見つけ、それを極めていかれます。
もちろん門先生にとっても険しい山もあります。
薬物療法について書かれた章などその最たるものでしょう。
児童精神医療の分野で使用される薬は、厳密に考えればそのほとんどが実験的な使用なのである。治療薬であれ検査薬であれ、そうなのだ。つまり、これらの薬を投与するということは、治療的な人体実験、もしくは非治療的な人体実験ということになる。そうすると人体実験としてのしかるべき倫理基準に則して行われなければならないが、その点が私には甚だ疑間に思えた。1985年当時、子どもに使用された薬の効果について報告された論文をいくつか読み、薬の実験的使用に関する手続きについての当時の指針や倫理原則を参照してみたところ、我が国の児童精神医療の悲惨さには改めて慄然たる思いを禁じ得なかった。
そんな門先生が、止むに止まれぬ義理から、日本児童青年精神医学会の第50回総会の総会長を引き受けざるをえなくなったそうですが、その時引き受ける条件として出されたのが、“開催にあたり製薬会社からの寄付は受けない、つまり参加費を値上げしてでも自前で総会を開催する”ということだったそうです。
期待と激励の声と同時に、やはり誹謗中傷にもあわれたそうですが、プログラムを充実させ史上最多の参加者で、製薬会社からの寄付を上回る額の剰余金まで確保されたとのことです。
余剰金が出たら開催地でのいろんな活動に使ってよいことになっていたのだが、そうはしなかった。次の総会も製薬企業からの寄付を受けずに開催できるようにと、学会に贈呈した。しかし、その願いは見事に打ち砕かれた。次の総会で、再び製薬企業からの寄付も無料の弁当も、あっけなく復活していた。もちろん、私も同僚もランチョン・セミナーは聴講したが、弁当は受け取らなかったことは言うまでもない。
いかにも門先生らしい、自閉スペクトラム医師宣言を唱えた医師らしい後日談で、笑っちゃいけないのですが思わず笑ってしまいました。そして、製薬会社と“ほど良い、いい関係”でつきあう、合わせていくのが非ASのえらいさん、学会の中枢部のお医者さんなんでしょうね。
いかに門先生といえ、一人でこの強固な関係を変革するのは困難だったのでしょうか、残念!
もっとも、ここで力を使い切るよりは、次の山の頂、PECSの日本での啓発に力を注いでいただいたおかげで、私たち親にとってはありがたかったと思えます。
・・・取り上げられた薬物療法については、みんなで少しずつでも声を挙げていきましょう。
また、本書は門先生の人となりを幾分かでもご存知の方にとってはほのぼのとして、心あたたまる一冊なのですが、もし門先生のご講義を受けたことのない方にとっても、各章ごとに含蓄ある言葉がちりばめられているのが本書となっています。万人にお薦めの一冊です。
たとえば、最初の頃、児童福祉センターでお仕事を始められた頃のテーマ “不登校”に対する門先生からの提案です。
したがって、子どもが本当に必要とするときに休みが取れる制度を設けることが、不登校を減らすうえで大きな力になるはずだと考えた。子どもだって疲れるときは疲れる。当たり前だ。だから、子どもにもいつでも取れる「年次休暇」を与えるべきなのだ。
疲れたときに休みを取ることができるということは、子どもにとっても非常に大事な権利だ。休息の権利は、「子どもの権利条約」の第31条に明記されている。その際重要なことは、休みを必要とするときにはいつでも自由に休めて、休むときに理由を言う必要がないということである。
だから、理由を言わなくても休暇が取れる年次休暇制度を設けるべきなのだ。
ここでも、「子どもは本来無給なのだから、ここでは「有給休暇」ではなく「年次休暇」と呼称すべきである・・・」なんて主張は、いかにも門先生らしい“こだわり”でクスッとしてしまいました。
一方で、同感できるグチも漏らされています。これは、2000年にロンドンで開かれたPECSのワークショップに参加された後のつぶやきです。
ところで、ワークショップ受講のために、はるばるロンドンまで大枚はたいて行ってきた以上、PECSを実践しないという選択肢はなかった。今では国内で、しかもオンラインで、ワークショップを受講することができるので、交通費や宿泊費がいらない。それでも受講費が高いとおっしゃって、特に特別支援学校の先生はなかなか受講してくださらない。京都や大阪から東京ディズニーランドに1泊2日で行く費用よりは安いと思うし、とても画期的な表出コミュニケーション支援のスキルを習得できることを考えると、一生の宝になるしプライスレスだと思うのだが。
そうですね。「近隣の講演会等の案内板」でも紹介していますが、普段行政開催の無料セミナーに慣れている学校の先生方には、2日間で、40,700円(保護者30,250円:税込)のPECSのワークショップレベル1の金額は高く感じられるのかもしれませんね。
しかも、学校からの補助もなく自前での参加となると・・・・先に書いた、お医者さんが学会におけるランチョンセミナーの無料弁当(製薬会社からの提供)に慣れてしまって、“当然”と思うところに似た感じなのでしょうかね。
そこで、ということで、実は来年度の即実践講座の講師を門先生にお願いしています。
年間10回の連続講座ですので、その中の表出コミュニケーションのところではPECSの有効性を、実践の様子も交えながら紹介していただきたいと思っています。
この連続講座でPECSについて知ってもらい、授業や療育に取り入れたいと思ったら、次はレベル1のワークショップを受講していただきたいと願っています。
また、これも「近隣の講演会等」に載せていますが、来年 令和8年1月16日(金)19:00~20:30には「PECSの概要」として、無料のセミナーがオンラインでありますので、興味のある方は“お試し”でいいので、ぜひ視聴してみてください・・・・と、お願いして、今月のお薦め本を終わらせていただきます。
(「育てる会会報 323号」(2025.12) より)
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目次
プロローグ
第1章 大学入学まで
第2章 大学生時代
第3章 病院勤務医時代
第4章 英国にて ~留学とローナ・ウィング先生~
第5章 児童精神科医始めました
第6章 児童虐待、ADHD、自閉症をめぐって
第7章 自閉症と薬をめぐる問題
第8章 自閉症 ~治療から支援へ~
第9章 自閉症とPECS
第10章 取り残された人たち
第11章 デジタル・デバイド
第12章 退職後 ~西陣麦酒の誕生~
第13章 少数派と多数派
エピローグ
























































