『 児童発達支援・放課後等デイサービスのための 発達障害支援の基本 』
内山 登紀夫:著 日本評論社 定価:2500円+税 (2025.11)
私のお薦め度:★★★★☆
育てる会でも以前講演をお願いした、よこはま発達クリニック院長でTEACCHプログラム研究会の会長も務められている内山登紀夫先生の近著です。
タイトルの前に「児童発達支援・放課後等デイサービスのための」と付けられているように、この本のもとになっているのは、よこはま発達クリニックで主催された支援者や保護者を対象にした連続12回のリモート講義の内容です。
12回もの連続講義を行ったのは、発達障害を体系立てて理解する必要があると常日頃から感じていたからでもあります。発達障害についてのセミナーや講義を学校や専門家団体、行政機関などから依頼されることが多いですが、多くの場合、1時間や半日での依頼です。そのわずかな時間で、発達障害の概念から子どもや親の支援について説明するのは困難です。
特に、対象が児童発達支援や放課後等デイサービス、保育士や教師など、支援や教育を業務としている専門職の場合は、スキルや知識も一定の水準が要求されます。しかし、福祉や教育の業界では、スキルや知識よりも「愛情」や「熱意」が重視される傾向があるように感じます。
著者は発達障害の支援者には発達障害に関する一定の知識とスキルが絶対に必要だと考えています。発達障害は一見すると障害があるように見えないことも多く、知識やスキルがない支援者が「愛情と熱意」だけを武器にサポートすることは、大きなリスクを伴います。(「はじめに」より)
それは、私たちが20年前から支援者の方に向けての連続10回の即実践講座や夜間連続講座を毎年続けてきたのと同じ思いです。
(ちなみに今年は井上雅彦先生と菊池省三先生、令和8年度は門眞一郎先生と諏訪利明先生に、それぞれ連続10回の講座をお願いしています)
ですから、本書の内容も、初めて支援にあたるようになった方でも理解しやすいように、発達障害の特性の理解から支援の方法までを分かりやすく解説されていただいています。
児童発達支援や放課後等デイサービスで支援にあたられるのなら、初心者であっても最低限ここまでは理解して、身につけておいてほしいという知識やスキルの話です。
ただ日本の現実として、支援の目標はあってもHow(どのように)についての考察がないまま、どんどん事業所が増えていくことを内山先生も問題とされています。
障害児支援制度の問題点は、障害特性のアセスメントがなく、障害特性を考慮したノウハウがなくても児発管として機能してしまうことです。
ニユーロダイバーシティの時代でも「集団適応」や「訓練」が国の施策として生きています。「子どもは子どもらしく、みんなと一緒に遊ぶ」ことなど、多数派の価値観をもとにした目標が立てられますが、それを実現するための具体策がないままの個別支援計画になりがちです。目標はあっても、それを達成するための手段・工夫が必要との認識が乏しいです。
たしかに行政からの事業所の実地指導(現在は運営指導の名称)においても、人員配置や各種書類の整備等は細かく審査されますが、「障害特性のアセスメント」や「障害特性を考慮したノウハウ」などを問われることはありませんね。それが一番大切だと思うのですが・・・質を審査されることはありません。
また、自閉症支援のための研修についても問われることはありません。教員免許や保育士の資格を持っていれば、知識やノウハウを知らなくても採用当日から子どもたちの支援(?)にあたれるのです。
行政的には何の問題もないのです・・・・
一方で内山先生は、学校現場についても注文を付けられています。
学校教育にも問題点があります。一つは集団主義です。みんなで同じことをやるのが大事で、平等であるという思い込みは落とし穴です。体力はない子もある子もいますが、全員1.5km走ることを強要されるのはほんとうに平等なのでしようか。
また、お題目主義でもあります。「みんな仲良くしよう」「明るく振る舞おう」「みんな元気で明るい〇年△組」・・・・・しかし、みんなが元気で仲良くて明るいなんてことは実際にはありえません。明るくない、友達と仲良くできないと、自分はダメだと思ってしまう子どももいます。明るくなくても、友達と仲良くできなくても、ダメな子どもではありません。
学校では、我慢の教育になりやすい傾向があります。将来に備えて今頑張ろうと訓練的になってしまいます。もちろん、ある程度頑張ることも必要でしょうが、学校では子どもにとって動機のないこともしなければなりません。例えば、ピアノが好きで弾きたいという子どもは、多少つらくても一生懸命練習する動機があるでしょう。しかし、ピアノが嫌いな子に練習をさせるのは、その子がつらいだけで、決してプラスにはならないだろうと思います。
「ともだち、百人できるかな~~♪」 友だち100人できる小学1年生は、まずいないと思いますし、友だちの数が多いほどすばらしいわけでもないですし、そもそも“友だち”がいなくても一人でいる方が気楽な子はそれでいいと思います。
もっとも、友だちがほしいASDの子もいると思いますし、友だちの作り方が分からない子もいると思えるので、そんな時には周りからサポートしてあげればいいですね。
要は一つの価値観を押しつけないで、それぞれの自分の思いを認めてあげるのが多様性を尊重するニューロダイバシティなのでしょう。
そんなわけで、支援者としての基本的な“スキル”については、本書をご覧いただくとして、最後に“知識”として面白かった・・・と言うと失礼かもしれませんが、ウンウンと思わず納得した「愛の子育て」なるものを紹介させていただきます。
保健師、保育士、先生、他の保護者と話しているときに、言ってほしくない、保護者が傷つく言葉を紹介します。
◆ あいじょうかけてあげて
◆ いつも笑顔で接してあげて
◆ のばしてあげて(協調性、社会性、遊び、学力)
◆ こんな子、初めてみました(と、数人に伝えている先生もいる)
◆ こどもと話をしていますか? こどもと遊んでいますか?
◆ そだてかたに問題があるんじゃ
◆ だきしめてやってください
◆ てをかけてください
頭文字「あいのこそだて」と覚えてほしい、親御さんを傷つける呪いの言葉です。このような言葉は支援者との関係を悪くし、支援から遠ざける禁句だと思ってください。言っている本人は善意で、親御さんを傷つけようとしているわけではないけれど、聞いた親御さんは結果的に傷つきます。
このような言動はマイクロアグレッション(小さな敵意)と言われ、無意識的・日常的に行われる、差別的・排除的な言動や態度のことです。多くの場合、発言者に悪意はなくても、受け手にとっては傷つく経験となります。
間違えないでくださいね。幼稚園や保育園などで園長先生から聞いたことがあるかもしれませんが、これは「保護者が傷つく言葉、禁句集」ですよ。
もちろん発達障害児の療育現場においても、最初の「愛情をかける」ことは大切ですが、そのためにはそれを裏打ちする技術を伴ってこそ、という意味での禁句集です。
本当は、保育園などでも障害特性に配慮した保育を行なっていただけるのがベストなのですが(そのために私たちも「現場の先生のための即実践講座」などを開催しているわけですが・・・)、それはなかなか難しいことから、本書「児童発達支援・放課後等デイサービスのための 発達障害支援の基本」では禁句集として挙げられているわけです。
・・・もっともAS気質の私なんかは、頭文字が「あいのこそだて」ではなく、「あいのここそだて」になってますが・・・、などと些末なことに気になるタチなんですが (^^;)
蛇足はさておき、発達障害の療育に携わっている方、これから取り組もうとしている方には、ぜひ読んでおいていただきたい一冊です。お薦め本です。
(「育てる会 会報 333号」(2026.1)より)
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目次
まえがき
第1章 発達障害とは何か
~ ニューロダイバシティの観点から
はじめに
ニューロダイバシティとは
アタッチメント(愛着)とは
多様性の尊重
神経発達症群とは
知的発達症
自閉スペクトラム症(ASD)
注意欠如・多動症(ADHD)
学習障害
発達性協調運動症
社会モデルと個人(医学)モデル
感覚の問題
英国におりるニューロダイバシティ
第2章 自閉スペクトラム症の学習スタイル
自閉スペクトラム症の学習スタイル
暗黙的な学習
聴党情報の処理
注意
「注意」の特性への配慮
弱い中枢性統合
実行機能
社会性の認知
社会性の認知の苦手を補う
英国の新しい理論
感覚の問題
ASDを理解することの意味
第3章 感覚問題の理解とサポート
感覚刺激が多すぎる
感覚刺激への反応
感覚をめぐる困りごと
異食 ― 食物でないものを食べる
対策
第4章 コミュニケーションと交流のサポート
定型発達のコミュニケーションの発達
ASDのコミュニケーションの発達
表出コミュニケーションへの特性の現れ方
受容コミュニケーションヘの特性の現れ方
非言語コミュニケーションヘの特性の現れ方
社会的コミュニケーション障害の現れ方
社会性と対人コミュニケーションは不可分
コミュニケーションの支援
受容的(理解)コミュニケーションのアセスメント
コミュニケーションの指導の方法・工夫
コミュニケーションを妨げるもの
社会的状況でのコミュニケーションの指導方略
大人のコミュニケーションの調整
まとめ
第5章 療育の原則
~SPELL、TEACCHの考え方と支援方法
発達障害の療育の原則
SPELLとは
TEACCHの構造化
第6章 いわゆる問題行動、懸念される行動の対応、
愛着・トラウマとの関連
行動の理解と問題行動の対応
行動の機能分析
自閉性疲弊と燃え尽き
愛着とトラウマとの関係
精神医学におけるアタッチメント障害
発達障害の子どもはトラウマ体験をもちやすい
虐待・愛着障害か、発達障害か
養育者・支援者に求められるもの - アタッチメントの視点から
ASDとトラウマ
第7章 思春期の課題と女子の特性
思春期のASD・ADHDの子ども
合理的配慮について
思春期の支援の基本方針
就学にあたって
「平等」「差別」という落とし穴
思春期の変化
「授業に集中しない、落ち着きがない」子どもへの対応
女子の特徴
女子に向けた指導方略
思春期の社会性/性の問題への対応
ASDの女子といじめ
ASDの女子とカモフラージュ
第8章 本人・家族への特性理解の支援
本人・家族への「告知」
「障害受容」という曖味な用語
発達障害の理解の障壁
保護者が傷つく言葉、禁句集
発達障害で考慮すべきこと
自分の特性を自分で理解する
カミングアウト、第三者への説明
当事者にとっての診断の意味
第9章 不安とストレスの対応
ASDの人たちのストレッサー
発達障害と合併しやすい精神疾患・身体疾患
ASDと不安
ASDと抑うつ症
不安やうつをもつASDの人へのサポート
治療・支援
個別カウンセリング
第10章 医療と連携・薬物療法
発達障害と医療
発達障害の子どもの薬物療法
問題行動への対応
薬物療法の開始、中止、増量、減量の判断
ASDに伴う身体的併存症
睡眠障害
精神科治療における薬物療法
薬物療法を希望する人への注意事項
第11章 日本の障害児支援の仕組みと課題
障害児支援ナービス制度
計画相談支援・障害児相談支援の仕組み
受給者証をめぐって
医療とのかかわり
調査から見えてきたこと
相談支援と事業所のサービス
現場での支援
第12章 将来の自立した生活に向けての支援
成人期に困っていることから逆算して考える
将来に備えて
子どもをサポートするときの原則
学校をどう考えるか
合理的配慮と学校
「統合教育」と特別支援教育
排除・不登校
エネルギーとキャパシティ
学校におりるネガティブな体験
本人中心のプラン
10代へのアクションプラン
保護者・支援者が自分自身を大切にする
あとがき
参考図書/推薦図書























































