『 自閉症スペクトラム クラスメートに話すとき 』
服巻 智子:編・著 キャサリン・フェハティ、キャロル・グレイ:著
エンパワメント研究所 定価:1500円+税 (2015.2)
私のお薦め度:★★★★☆
自閉スペクトラム症の本人への障害告知については、これまでも吉田友子先生の講演や著書「あなたがあなたであるために」などで、丁寧に取り上げられてきました。育てる会でも、何度もご講演いただいているので、会員のみなさんも触れられてこられたと思います。
さて、次の段階はそれをどのように周囲の人に伝えていくか、ということになりますね。特に知的障害を伴わない高機能な自閉スペクトラム症のお子さんの場合は、普通学級に在籍していることも多いので、伝える相手はクラスメートということになるのでしょう。
本書の構成は第1部では著者であり、編者も担当されている服巻智子先生による「クラスメートに話すということ」で、障害表明(Disclosure:ディスクロージャー)の持つ意義や、誰が話すのがいいのか、またその時期や方法について、服巻先生の実践例を交えながら解説されています。またその際に資料や教材として利用されているのが、第2部 キャサリン・フェハティ女史の「友だち理解プログラム」や、第3部 キャロル・グレイ女史の「シックスセンス Ⅱ」ということになります。
まず、その障害表明の意義の一つについて、こんな風に述べられています。
障害表明をすることを含む本人への自己認知支援とは、その取り組みを通して、発達に障害のある本人ばかりでなく、かかわる周囲のクラスメート、同僚ほか、親も教師も支援員も専門家も、誰もが自分自身の中にある差別や偏見や社会的圧力に負けそうになる弱い心と闘うことで、ともに成長していくことなのです。
つまり、適切に障害表明(開示)することにより、クラスメートの誤解や偏見から抜け出すこともできるはずであり、それは周りのクラスメートにとっても成長を促すことにつながる、と考えられていらっしゃいます。
発達障害のある子どもたちの不可思議な言動は、ときに一般の子どもや大人たちの理解を超えたものであったり常識から逸脱したものである場合があり、周囲の人を驚かせ警戒させます。その場合に発生する相互作用によっては「からかい」や「いじめ」も発生します。ところが、それは相手のことが理解できないためにそのような相互作用に陥りがちなだけであり、相手の不可思議な言動の理由やからくりがわかれば、子どもたちは大人が推測する以上にたやすく理解し、接し方を学ぶものです。つまり、相手の不可思議さには理由があり、それに適切に対処すれば、自分が脅かされることはないと理解すれば、それなりの対応を取ることができるのです。
もちろん、こんな風にうまくいくためには、それなりの準備や作戦が必要になってきます。なにより担任の先生の資質や心構え、協力が求められます。
本書にも書かれているように、担任本人が学級崩壊や集団行動の困難をその子のせいにして、自らの能力不足を認めないような場合・・・、子どもたちはその教師の言動を結構見抜いていることも多いのではないでしょうか。そんな「本音と建前は違うもの」と考えている教師が、クラスメートに障害表明をしてしまったら、クラスメートは建前では理解したふりをしても学級崩壊は続き、いじめもなくならないようにも思えます。
残念ながら、その年はディスクロージャーは止めたほうがいいのかもしれません。でも、今の日本、「当り」の先生にあう確率はあまり高くないようにも感じられますね。
それは、次の「誰がクラスで話すのがいいか」の考察にも繋がっていくのですが、担任教師の人間性に信頼が置けない場合はかえって反発を受けることもあるということすね。一方保護者が話す場合は、公平中立さに欠け「えこひいき」とみなされるおそれがあり、これまた一部の生徒からの反発が予想されるため、少なくとも小学校中学年以上では親以外の方が望ましいと服巻先生は述べられておられます。
服巻先生のご推奨は、服巻先生ご自身のような「学校外の専門家」ということになるのですが、そんな専門家を見つけるのは「当りの担任」に出会うより、はるかに難しいのではないでしょうか。
少なくとも、岡山では・・・・
ですので、今できるのは、小学校低学年までに、親か、協力できる先生が、第2部・第3部で紹介されている「友だち理解プログラム」「シックスセンス(5感に加えての、友だちづきあいの感覚)Ⅱ」などを参考にして自分たちで行なうのがベストでしょうね。
最後に注意点として服巻先生が強調されておられるのは、きちんと障害表明ができたとしても、クラス中の全員が障害を理解して、いじめがなくなる訳ではない、ということです。
話を聞いたからといってすぐに理解してくれない人もいます。また、なかには受け入れたくないという人もいます。筆者はASDのある子どもたちで障害表明を考えるようになった子どもたちに、「他のひとたちに、自分のちがいをわかってほしい」と願うなら、「受け入れたくない」という人の気持ちを尊重するように教えています。
最後に紹介されている、自分で障害表明を決心した小学5年生の少年のことば、「わかってくれない人は仕方ないけど、わかってくれる人を増やしたい」。
彼は服巻先生に相談して、3ヶ月かけて準備をして、その日を迎えたそうです。それには保護者の方をはじめ、担任の先生、学年の先生方、校長先生など周りの大人たちがそれぞれの役割を果たして実現に至りました。
そして障害表明を行うことは自己権利擁護(セルフアドボカシー)に不可欠な事柄でありスタート地点である、と主張されていらっしゃいます。
子どもに障害があるとわかり、その事実を受け止めるのは相当の心の葛藤があるでしょう。しかし、それを乗り越えた人々の表情の明るさや力強さには、いつも感動を覚え、また私も生きる力をもらったような神聖な気持ちになります。いのちはどんないのちも美しく力強く輝いています。彼らの尊厳は誰にも侵すことはできない。その尊厳を守るため、そして、主張するため、私もいつもそばにいて、全力をあげて応援し続けたいと思うのです。 (服巻智子:「総論」より)
本書は新刊本ではなく、もう10年ほど前に書かれた本ですが、今も障害表明に関わる本質は変わってなく、また残念ながら障害表明を取り巻く環境もまたあまり変わっていないと思われるので、まだ本書を読んでなくて、今クラスメートに障害表明をするかどうか迷っている保護者の方には参考になる1冊と思い、今月のお薦め本として紹介させていただきます。
(「育てる会会報 327号」 2025.7 より)
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目 次
序 服巻智子
第1部 クラスメートに話すということ 服巻智子
第1章 子どもの障害について、クラスメートに話すこと
1) はじめに
2) 「子どもの障害を表明するといじめが増える」という先入観の間違い
第2章 発達障害のある子どもにとって、障害を表明することの意義
1) 障害表明の利点
2) 障害表明のデメリット
3) クラスメートたちの心理
4) 周囲の子どもたちの理解と共感性を高めることこそ、究極の特別支援教育!
5) Honesty―それは人間関係の基本
6) 障害表明をすべきではないとき
第3章 誰が話すのか?
1) クラスメートに話す役割を担う候補者
第4章 小中学校で障害表明をするときの指導例
第5章 障害表明実施までの準備と手続き
1) 障害表明の決断は本人が行うものである
2) 保護者ときょうだいたちの心構えを支援する
3) 支援者間の役割分担を明確化する
4) クラスあるいは学年の保護者会への対応
第6章 友だち授業の実際
【実践事例】
第7章 障害表明後のフォローアップについて
1) 当該児童と当該保護者のフォローアップ
2) クラスメートのフォローアップ
第8章 自己権利擁護の力を育む
1) めざすのは、自己権利擁護(セルフアドボカシー)の力を育てること
2) 成長にともなう障害表明のあり方や開示する対象者の変化
3) ハードディスクロージャー(診断名を公表する方法)
4) ソフトディスクロージャー(診断名を伝えず、特性のみを伝えるやり方)
5) 実際の適用場面では
6) 自己権利擁護スキルとアサーショントレーニング
第2部 友だち理解プログラム
子どもたちに「人と人との違い」について理解を促進し、共感性を育む教育
キャサリン・フェハティ
日本の先生方へ
プランA基本形 「友だち理解プログラム(∪FP)」の導入
プランBオプション 特別支援教室やその在籍児童について紹介する
プランCオプション クラスメートを理解しよう
「友だち理解プログラム」の指導案
A.「友だちを理解する」導入 一般論による基本形
Part1 能力
Part2 体験学習
Part3 言語理解のデモンストレーションを観察する「食事の準備を整えなさい」
プランBオプション 特別支援学級とその在籍児童について紹介する
プランCオプション 特定の(自閉症スペクトラムのある)クラスメートについて理解する
■児童書の活用
「友だち理解プログラム」準備物リストと体験学習の解説
① 手先の巧緻性に関する体験学習
② 視覚のちがいに関する体験学習
③ 触覚等の感覚受容のちがいに関する体験学習
④ 注意集中や聴覚刺激のちがいに関する体験学習
第3部 シックスセンスⅡ キャロル・グレイ
目的
本時の目標
教材
所要時間
特記事項
導入部
五感について学ぶ
相手の視点に立つことと六番目の感覚(シックスセンス)
感覚について相手の視点に立つ体験学習
認知のちがいについて相手の視点に立つ体験学習
感情についての相手の視点に立つ体験学習
社交的な感覚(シックスセンス)に障害があるということは、どういうことだろう?
私たちは同級生として、どんな手助けができるのでしょうか?
まとめ
授業案「シックスセンスⅡ」について よくある質問とその答え
総論 服巻智子







