今回は「山背の久世」と謳われる京都府城陽市を訪れました。
メインは正道官衙遺跡という現在は公園になっている施設です。
更に言うと、歌碑というよりはほとんどがパネルになります。
また、ご紹介する和歌の数が多くなるので、分けて投稿したいと思います。
それでは始めていきましょう。
こちらは城陽駅前になります。
銅鐸や埴輪のモニュメントが噴水の周りに点在しています。
ここから歩いて正道官衙遺跡を目指しましょう。
【万葉集1707】
山代の 久世の鷺坂 神代より 春ははりつゝ 秋は散りけり
山代 久世乃鷺坂 自神代 春者張乍 秋者散来
現代語訳は看板に書いてあるので割愛いたします。
正道官衙遺跡を目指して北西に向かって歩いていたところ、
何気なく上っていた坂道が偶然歌枕である久世の鷺坂でした。
こうして歩いている坂道が古の歌人たちを魅了して歌に残されたと思うと感慨深いですね。
正道官衙遺跡に到着しました。
庁舎の建物があった場所は子どもの遊び場に整備されて残っています。
この公園の端っこに和歌のパネルが多数点在しているということで見ていきましょう。
【万葉集166】
磯のうへに 生ふる馬酔木を 手折らめど 見すべき君が ありと言はなくに
磯之於尒 生流馬酔木乎 手折目杼 令視倍吉君之 在常不言尒
岸のほとりに咲く馬酔木を手折って、思わず花を見せたいと思う。けれども見せるべきあなたはいないことだのに。
【万葉集1848】
山の際に 雪は降りつつ しかすがに この河楊は 萌えにけるかも
山際尒 雪者零管 然為我二 此河柳波 毛延尒家留可聞
山のあたりに雪は降り続け、しかし一方、この川柳は萌え出したことよ。
【万葉集3830】
玉掃 刈り來鎌麿 室の樹と 棗が本と かき掃かむため
玉掃 苅來鎌麿 室乃樹與 棗本 可吉將掃為
玉掃を刈りとって来い、鎌麿よ。室の木と棗の下を掃除したいから。
【万葉集111】
古に 戀ふる鳥かも 弓絃葉の 御井の上より 鳴き渡り行く
古尒 戀流鳥鴨 弓絃葉乃 三井能上従 鳴済遊久
昔を恋うる鳥だろうか。弓絃葉の御井の上を鳴きながら渡りすぎていくことよ。
【万葉集4139】
春の苑 紅にほふ 桃の花 下照る道に 出で立つ少女
春苑 紅尒保布 桃花 下照道尒 出立𡢳嬬
春の苑に紅が照り映える。桃の花の輝く下の道に、立ち現れる少女。
※デバイスによっては[女+感]の文字が表示されない場合があります。
表示されない場合のために補足しておくと、[女感]と嬬の二字で「をとめ」となります。
【万葉集125】
橘の 蔭履む路の 八衢に 物をそ思ふ 妹に逢はずで
橘之 蔭履路乃 八衢尒 物乎曾念 妹尒不相而
橘の木陰を踏む道の四方八方に分かれるように、あれこれと物思いをするよ。妻に会うこともなくて。
【万葉集141】
磐代の 濱松が枝を 引き結び 眞幸くあれば また還り見む
磐白乃 濱松之枝乎 引結 眞幸有者 亦還見武
磐代の浜松の枝を結び合わせて無事を祈るが、もし命あって帰路に通ることがあれば、また見られるだろうかなあ。
【万葉集2188】
黄葉の にほひは繁し 然れども 妻梨の木を 手折り插頭さむ
黄葉之 丹穂日者繁 然鞆 妻梨木乎 手折可佐寒
黄葉は多くの木々をいろどっている。だが私は妻と成す梨の木を手折って髪に插そう。
【万葉集1461】
晝は咲き 夜は戀ひ寢る 合歡木の花 君のみ見めや 戲奴さへに見よ
晝者咲 夜者戀宿 合歡木花 君耳將見哉 和氣佐倍尒見代
昼は花ひらき夜は恋いつつ寝る合歡木の花を、あるじだけ見ていてよいだろうか。お前も見なさい。
【万葉集1847】
淺綠 染め懸けたりと 見るまでに 春の楊は 萌えにけるかも
淺綠 染懸有蹟 見左右二 春楊者 目生来鴨
浅緑色に枝を染めて懸けたと思われるほどに、春の楊は芽を出したことだ。
【万葉集1777】
君なくは 何そ身裝餝はむ 匣なる 黄楊の小梳も 取らむとも思はず
君無者 奈何身將裝餝 匣有 黄楊之小梳毛 將取蹟毛不念
あなたがおられずして、どうしてわが身を装いましょう。匣に大切にしまう黄楊の小櫛も手に取ろうとは思いません。
【万葉集54】
巨勢山の つらつら椿 つらつらに 見つつ思はな 巨勢の春野を
巨勢山乃 列々椿 都良都良尒 見乍思奈 許湍乃春野乎
巨勢山のつらつら椿を、その名のごとくつらつらと見ては賞美したいものだ。巨勢の春の野を。
【万葉集4226】
この雪の 消殘る時に いざ行かな 山橘の 實の照るも見む
此雪之 消遺時尒 去來歸奈 山橘之 實光毛將見
この雪がまだらに残る時に、さあ行こうではないか。山橘の実が輝くのも見よう。
【万葉集1859】
馬並めて 多賀の山邊を 白𣑥に にほはしたるは 梅の花かも
馬並而 高山部乎 白妙丹 令艶色有者 梅花鴨
馬を並べて多賀の山辺を真っ白に色どっているのは梅の花よ。
【万葉集2315】
あしひきの 山道も知らず 白橿の 枝もとををに 雪の降れれば
足引 山道不知 白牫牱 枝母等乎々尒 雪落者
あしひきの山道もわからない。白橿の枝もたわむばかりに雪が降っているので。
【万葉集1694】
細領巾の 鷺坂山の 白躑躅 われににほはね 妹に示さむ
細比禮乃 鷺坂山 白管自 吾尒尼保波尼 妹尒示
美しい白領巾のような鷺――鷺坂山の白躑躅よ、私ににおってほしい。帰って妻に示そう。
数が多いので、今回はいったんここまでとさせていただきます。
残りは次回にご紹介しますので、もしよろしければご覧くださいませ。
それと和歌に因んだ植物が植えられていたのですが、花が一輪も咲いていなかったのと、
カメラの容量の関係で省かせていただきました。ご了承ください。
ということで今回は以上になります。
最後までご覧くださりありがとうございました。
ではでは皆さんまたお会いしましょう。