とっさんの幸せ。 -5ページ目

返事

 


私の言葉に、彼は 
 


驚きの顔に、少し引きつりを加えた 





少しの沈黙の後、 




私は口を開く 


『実家にいるって言ってたよね?
どうして嘘をついたの?
なんで連絡くれないの?
クリスマスするって約束してたよね?』



私は、今まで溜まっていたたくさんの疑問符をつづけざまに彼にぶつけた





『………ごめん。』



私の疑問には答えず、彼はこう一言だけ答えた…



 


この言葉の意味はなんなんだろう……? 





ただの罪悪感からの謝罪なのか、
私達のこの関係になのか…………………?





いろんな事が浮かんだが、私は、なんだかもぅどうでもよくなってきていた 






『……もういいよ。別れたいなら、無理しないで。』



《嫌いになった?》


この言葉は何度か彼に聞いたが、


《別れたい?》


これは、初めて言った。 




どうしても、自分では認めたくなかったし、彼の返答次第では、私達の関係は それでただの知り合いに戻ってしまう 



どうしても怖くて言えなかった 



でも、自分の中でもう別れてもいいやと思えたのだ。 



嘘をついてまで 一緒にいるのはお互いに辛い 

優しい彼だから、言えずにいたのかもしれない 




冷静になり始めた私の思考は、彼からの終わりの言葉を待っていた 












…………なのに、 








『そうじゃない……。』





予想にも全く無かった返事が帰ってきた


 


………頭が真っ白になった



サッキノメールハ 
   ウソダッタ!? 



頭の中をこの言葉がぐるぐると回る  


『嘘』をつかれたんだ… 
………でも、どうして? 


コンビニに向かう私の足が、止まった。 


(まだ彼は気付いていない このまま会わないようにしたら 気まずい思いをせずにすむ) 


そうしなければ、、 




でも私の足は鉛のように重く、動けなかった。 

ただただ、彼がだんだんと近づいてくるのを眺めていた 



私の5メートル前辺りで、ようやく彼は私の存在を認識したようだ 

彼も立ち止まり、こちらを見ている。 




その時、

私の目は、彼の表情の変化を見逃さなかった……


 困惑ともとれる複雑な
 表情 悲しそうにも
 見える 



動かなかった足が一気に彼に向かって進みだした 





自分でも止められなかった 



そして私は彼に 
自分の中での最上級の怒りの言葉を告げた 





 『何やってんの?』



 

虚しさ、悲しみ、怒り、頭の中にはもっとひどい、彼を傷つける言葉がたくさん浮かんだ 


でも、私は彼に淡々と抑揚のない声でそう告げたのだ

傷口

元旦になり、私は仕事仲間と初詣に行った。 



今までなら、何があるわけでもなくなんだかワクワクして迎えていた新年も、この時は 時の流れの速さだけしか感じていなかった。 



新年のあけおめメール 
彼にもちゃんと送った。 

返事が無くても読んでくれる事を信じて。 



人間というのは、うまく出来ているのだと自分でも驚く。 

自分の中で抱えきれないような辛い出来事があると 自身の経験ではなく、誰かの体験として置き換えようとする




まるで映画を観てるみたい



自分の事じゃないように感じた… 

夢だったんじゃないか…? 
本当は付き合って無かったのかも… 



そんなふうに冷静に考えられるようになり、自分を保てるようになり始めた 





…………なのに。 


携帯は彼からのメールを告げた。 


『ゴメンよ。今、実家に帰ってる。合宿いかなかったから、冬休みは実家で過ごすよ。冬休み明けに帰ると思う。心配かけてゴメン』


このメールを受け取った日。私はあり得ない事実を目にしてしまった




その日の仕事帰り、コンビニに寄ろうと歩いていた私。 
そのコンビニが視界に入ってき、ただなんとなくそこから出てくる人に視線を向けて歩いていく。 





人が出て来て、私の方向へ歩いてくる。 






………………………………………………………?? 

《ナンデ? ドウシテ?》 


東京の実家にいるはずの彼が、なぜ今こちらに向かって歩いているのだろう 




初めて、彼に苛立ち以上の怒りが込み上げてきていた 



閉じようとしていた傷口が、思い切り口を開いた 

新しい傷を更に加えて……