ミュージカル『ジェーン・エア』から学ぶ人を赦すということ | to-be-physically-activeのブログ

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 東京芸術劇場プレイハウス(中ホール)でミュージカル『ジェーン・エア』を観劇しました。

 3月20日の記事にジェーン・エアは上白石萌音さんさんが演じると書いてしまいましたが私の勘違いで,観劇した昼の部はジェーン役を屋比久知奈さん,ヘレン・バーンズ役を上白石萌音さんが演じる回でした。お二人とも舞台俳優としてもミュージカルの演者としても成長著しい若手女優さんなので,本来ならばそれぞれの役替わりの回を観たかったです。

 今回の舞台は,ポール・ゴードンさんが作曲したミュージカルナンバー37曲で構成される音楽劇でしたが,脚本・演出と作詞を担ったのがジョン・ケアードさんだったので楽曲に心を奪われるというより,しっかりと台詞を聞き取り演劇としての物語の展開を理解することに集中しました。最近のミュージカルは歌詞が聞き取りにくい作品が多い中で,ジェーン役を演じた屋比久さんの歌唱はとても丁寧に感情表現を曲にのせた歌い方で好感が持てました。屋比久さんといえば『レ・ミゼラブル』のエポニーヌが歌う名曲「オン・マイ・オウン」がすぐに思い浮かびます。今回のジェーン・エアも感情の起伏が激しい役でしたが,屋比久さんの歌唱力にぴったり合った役柄だったなと思います。

 もちろん井上芳雄さんが演じたエドワード・フェアファックス・ロチェスターの心情も小説で読んでいたときより切実に理解できました。複雑で迷走するような人生の歩みの中で,他人に明かすことのできない秘密や弱みを抱えていたエドワードが,ジェーン・エアとの出会いを通じて人と人の間の感情の機微や真に人を愛することに目覚め過去を乗り越える勇気を得る過程はドラマチックで,感情移入することは容易でした。

 上白石さん演じるヘレン・バーンズは舞台での出番は少なかったですが,怒りと憎しみの感情に翻弄されている幼き頃のジェーン・エアに自由人として生きていくための示唆を与える重要な役割を演じていました。小説の中のヘレン・バーンズの言葉(信条)を引用します。

 

"No; I cannot believe that: I hold another creed: which no one ever taught me, and which I seldom mention; but in which I delight, and to which I cling: for it extends hope to all: it makes Eternity a rest―a mighty home, not a terror and an abyss. Besides, with this creed, I can so clearly distinguish between the criminal and his crime; I can so sincerely forgive the first while I abhor the last: with this creed revenge never worries my heart, degradation never too deeply disgusts me, injustice never crushes me too low: I live in calm, looking to the end.”

 

「ええ,あたしには信じられない。あたしはそれとは別の信条をもっているの,それはだれに教えられたものでもないし,めったに口にはしないけれども,その信条があたしに悦びをあたえてくれるし,すべてのひとに希望をあたえてくれるから,あたしはその信条にしがみついているの。その信条が永遠を休息の場としてくれるから ー 恐怖でも奈落の底でもなく,すばらしい住処にしてくれるから。それにこの信条をもってすれば,罪人とその罪とをはっきり区別することができるわ。罪は憎んでも,罪人は心から許すことができるわ。この信条によれば,復讐があたしの心を煩わせることはないし,堕落というものに思い悩むこともない,この世の不正があたしを押し潰してしまうこともないわ。あたしは終末を待ち望みながら平穏を生きるの」

(小尾芙佐・訳,光文社文庫版より引用)

  • abyss=深いふち、底の知れない深い穴、深い底、混沌(こんとん)、地獄、奈落の底(絶望)
  • abhor=(…を)ぞっとするほど嫌う

 

 憎しみを克服する最良の方法は暴力ではない。復讐は心の傷を癒すための最善の方法でもない。「赦し」とは罪を憎んでも,その罪を冒した人を敢えて許すことである。自由人として生きるためには,この困難な課題に真正面に向き合って行かねばならない。

 ヘレン・バーンズの残した言葉は,ジェーン・エアの人生の道しるべとなって生き続けます。