金木犀の香りに誘われて | to-be-physically-activeのブログ

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 感染症病棟の脇の植え込みから,金木犀の強い香りが匂ってきた。本来は切り花には向かない植物だが,短い枝を手折ってカップに移し部屋を満たす秋らしい芳香を楽しんだ。我々昭和世代は金木犀の香りを嗅ぐとトイレの消臭剤を連想するが,平成生まれの若者たちはそのようには感じないらしい。

 

 先週土曜日に池袋のジュンク堂に寄ったついでに,松岡圭祐・著の『黄砂の籠城』(上・下巻,講談社文庫)を買ってきた。清朝末期の1900年に起きた義和団事件を描いた小説である。ちょうど雪組公演の『蒼穹の昴』に登場する叶ゆうりさんが演じている柴五郎中佐のことを調べていて,この小説の存在を知った。

 戊戌の政変で西太后ら后党派が清朝の実権を再び握ってから二年後に起きたのが義和団事件である。「扶清滅洋」のスローガンを唱えて北京の在外公館のある東交民巷を囲んだ義和団の暴徒に対して,孤立無援の状態に追い込まれた日本を含む11カ国の公使館員たちは籠城作戦に打って出た。欧米諸国はそれぞれの利害と思惑によって足並みが定まらないなか,籠城作戦の指揮を執ったのが日本公館の駐在武官,柴五郎陸軍砲兵中佐(1860-1945年)であった。

 柴五郎は会津藩の武家の出身で,幼少期に戊辰戦争を体験しており鶴ヶ城の落城を経て,領地を没収された会津藩が斗南藩に移封されたときの困窮した生活も経験していた。長じてのちは陸軍士官学校に進み軍人としての道を歩み日清戦争にも参加するが,日清戦争の後は英・米公使館の駐在武官としての経歴を重ね,義和団事件の当時は清国公使館附となっていた。

 柴五郎の率いる日本公使館員や武官,義勇兵らの活躍によって,東交民巷での約60日間の籠城を持ちこたえ,多国籍軍の到着によってようやく解放にいたった。小説では柴五郎の外交及び軍事戦略両面での八面六臂の活躍が史実を参考に描かれている。まだ途中までしか読んでいないので,もう少し他の資料にもあたって柴五郎の人物像を明らかにしたい。