ある時、よい物件が見つかったため、工場を引っ越しました。
そこは、とある公園の近くでした。
そして、仕事の合間に趣味の写真撮影のため、毎日、その公園に通っていました。
自然に恵まれた公園では、風景の撮影に飽きることはありませんでした。
しばらくそんな日々を過ごしていました。
そして、何の前触れもなく、その日は突然、やって来ました。
2007年3月25日のことです。
いつものように写真撮影をする風景を探していた時、ふと3匹の猫たちが自転車から降りたおじさんの傍にまとわりついている様子が目に入りました。
猫たちは尻尾を立てて、体をくの字にしながら、おじさんの足元をくるくる回っていました。
私は、しばらくその光景を離れた場所から見守っていました。
おじさんは、猫のご飯を用意していたのですね。
おじさんがご飯の入ったお皿を地面に置くと、猫たちは一生懸命にご飯を食べ出しました。
ご飯を食べ終わった猫たちは、なんだかとても嬉しそうでした。
野良猫は人に遭遇すると逃げて行くものだとばかり思っていた私にとって、猫たちが体で感情を表現し、表情を持っていることが意外でした。
その後、おじさんとは別の方も猫たちにご飯をあげにやって来ました。
たくさんの方々が猫たちの世話をしていることを私は、初めて知りました。
しばらくして、餌やりさんが帰った後、ふと私は、「この猫たちなら触れることが出来るのでは?」と思いました。
今までの人生で猫に対する興味は全くなかったはずなのに、なぜこの子たちに触ってみようという気持ちになったのか、不思議です。
私は、しゃがんで少しずつ猫たちに近づいて行きました。
そして、3匹のうちの1匹にそっと触ることが出来ました。
猫の毛は柔らかく、その柔らかい体から犬の体とはまた違った温かさが私の掌に伝わって来ました。
人生で初めて体験した温もりでした。
私は嬉しくて、次の日もまた同じ場所に行ってみました。
昨日の猫たちの姿が見当たらないため、周囲を探しました。
すると、植え込みの中に置いてある箱の中に昨日、触らせてくれた猫が寝ていました。
すやすやと眠っている猫の丸い体は、息をする度に膨らんだり、へこんだりして、柔らかい毛がゆらゆら動き、日に当たってキラキラとしていました。
私は、その猫のあまりのかわいさに思わずシャッターを切りました。
そして、その様子をしゃがんでずっと見ていました。
しばらくすると、猫がふと目を覚ましました。
私の姿を見て、驚いてそのまま逃げるんだろうと予測しました。
しかし、猫は私が全く思いもしない行動をとりました。
箱から出て、サッと私の膝の上に乗って来たのです!
「エッー!何てかわいいんだろう!!」
膝の上の猫の体は、昨日、私が手で触れた以上に柔らかくて温かく、小さかったのです。
猫は小さな顔を上げて、私の目をじっと見つめました。
澄んでいて、とてもきれいな目でした。
「猫ってこんなにもかわいい生き物だったんだ。」と私は、生まれて初めて知りました。
体の奥から愛おしさが込み上げてきて、何度も猫の体をなでました。
その猫は、雄でした。
「リョー」と名付けました。
つづく
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