影の薬師の子守歌 | 口遊〜鳴きウサギ〜

口遊〜鳴きウサギ〜

生きる為に 息をするのを忘れていた
わたしのまわりが 息をするには狭すぎる
野々草を摘んで 口遊みなが ゆっくり ゆっくり歩きたい
勝利者とは誰のこと?
居心地の悪いところに居たくはないの

ー影の薬師の子守歌ー

言葉の毒は灰汁の如く
ときに静かに
しめやかに
身にはらわたに
沁み渡る

わからぬふりをしていても
すっかり病んだ君を見て
解毒作用の言葉を捜す

毒くらわば皿までと
皮肉を込めて 君は
嗤えど
辛かろう 苦しかろう

むかし薬師が居たという
治療の叶わぬ 人の血を呑み
地獄の苦しみを味わって
やがてそこから生還し
自分の身体に薬を作る
我と我が身の血を呑ませ
病の人を治したそうな…

認められない影の薬師…
鬼の薬師…
命を投げ出す薬師…
ほんとうかどうかは知らないが…

言葉の毒は言葉で
制す 

言葉は傷つける為のものじゃあない
君は傷つけられるべきじゃあない

治るまで わたくしは
ありとあらゆる
言葉を用い
君を完治させようと 

髪を撫でてやりながら
腕に抱いてやりながら
そう思った

なんにも出来ないわたくしが
できるせめてもの小さなことは
君に
綺麗な子守唄を
歌うことだ

美しい言葉で
綴られた
子守の思いの込められた
子守唄を歌うことだ…

ねんねんころり
おころりよ…
坊やは良い子だ
ねんねしな…