水底の街 | 口遊〜鳴きウサギ〜

口遊〜鳴きウサギ〜

生きる為に 息をするのを忘れていた
わたしのまわりが 息をするには狭すぎる
野々草を摘んで 口遊みなが ゆっくり ゆっくり歩きたい
勝利者とは誰のこと?
居心地の悪いところに居たくはないの

ー句ー


冷やかに風を凌いで雨覆ふ


ー水底の街ー

不意打ちのような雨ならいいが
長く続く雨に浸かると
身体も街も 水底にあり
ここは地上では もはや無い

最果ての町なら 砂漠か凍てつく場所だと
相場が決まっていそうだけど
それは わたしの誤り 
無知が故の 空想の中

思い込みはすべて
混沌に溶けて 自分の作り上げた
理想郷(ユートピア)も
最果ても 咲かぬ花の名前も
今は亡き人さえも 存命にしてしまう

雨の街をひとりきり
くすんだ街頭に照らされ
泳ぐように 歩けば
素足のほうが ましなことに
また 今日も気づいたの・・・

澄ました顔した熱帯魚のような女たち
獲物を探して鮫のような男たち

ビルという 岩陰で息を顰めるわたしは何?
小魚の群れにさえ 属せず ぼんやり保護色・・・

泡を吐き 上を向く どこもかしこも水 また水
手に握る 青い十字架 闇とも言えぬ仄暗さの中

多分 約束の場所へ急いでた
危険を掻い潜り それでも 急いでた

それが どこか・・・だれと なにを 約束したか
もう 忘れてしまった

「そんなもんだよ・・・生きてるなんて・・・
徹頭徹尾 首尾よく運ぶなんて あり得ない・・・
存外 突然の事故みたいな人生が当たり前かもね」

雨どいの下で うつぼによく似た猫が 呟く・・・

ーうたー

スローモーションで水分け進む街並みを
 我 夏日より深くおよげり