花火の夜 | 口遊〜鳴きウサギ〜

口遊〜鳴きウサギ〜

生きる為に 息をするのを忘れていた
わたしのまわりが 息をするには狭すぎる
野々草を摘んで 口遊みなが ゆっくり ゆっくり歩きたい
勝利者とは誰のこと?
居心地の悪いところに居たくはないの


ー花火の夜ー

打ち上げ花火を見ている君は
まるでこどものようだった。
はしゃいだり 騒いだり 歓声を上げたり いつかの夏の日 そんな横顔が 愛しいと思ったこともあったんだ。

今年の君は 浴衣を纏う事もなく 変に嗜好を凝らす訳でもなく ただ空気のように 静かにわたしに寄り添って 打ち上げられた大輪の一瞬の美を 息を殺して見つめている。

わたしはその時 気付いたのだよ。君が随分大人びて その横顔こそ綺麗なんだと。
二度ほどハンカチで汗を拭う そんな仕草が板についてて、土手で転んだこどもの泣き顔を心配なんかしている。

君はほんとうに女性になって行くんだね。
そう思ったら、少しさみしい気もしたけれど、何度も行った花火大会の中で今年が一番素敵だった。だってさ、よく考えたら、君は一度もわたしとの花火大会をすっぽかさず ついて来てくれたろ?

君はわたしの育てた花だね?端正込めて育てた薔薇だ。

最後の仕上げの連続花火に 君は少し肩を竦めて

凄い迫力ねって言った。

寡黙で静かな君は まるで夏の夜空の星のようだ。
キラキラなんて音は発しない星々は けれどまごう事無く美しい。君の瞳の中の花火と同じなんだよ。いい花火大会だったね。わたしは大いに満足だった。

欲を言えば 大人びた君が唯一欲しがった 昔ながらの水の入った手描きのヨーヨーが いまやキャラクターものに取って変わって、次の朝も萎んでしまわぬような樹脂製に変わってしまったことか?

帰りしな また君は言ったね。

形が無くなる寂しさがあるから また来年の祭りを楽しみにできるのに…って。うな垂れたね。

ごめんよ、見つけられなくて、来年はもっとたくさんの祭りで君の欲しがる白いヨーヨー、探してみよう。

君の無邪気と大人顔を見たいわたしは 欲張りかな?


つきたやなむかし遊びしヨーヨーの
水音させて明日萎みゆく