本日は、
瀬戸内寂聴さんの波乱の半生を描いた
井上荒野さんによる同名小説を映画化
映画「あちらにいる鬼」を鑑賞
2021年11月9日、満99歳で波乱の生涯を閉じた作家・僧侶の瀬戸内寂聴さん。私が瀬戸内寂聴さんを知ったのは小学校4年生くらいの時です。
そのころは出家もされておらず、まだ瀬戸内晴美さんとして活動されていました。学校の音読コンクールで瀬戸内晴美さんの「風のたより」という小説を音読したのが知るきっかけでした。その後、あの瀬戸内晴美さんが瀬戸内寂聴さんと同一人物だということを知りました。
そして、なぜ彼女が出家し尼僧になったのか、彼女にそう決意させるまでの人生には何があったのか、などを知っていくうちに女性としてとても興味がわきました。
恋愛に生き、情熱を作品に昇華させる半生を送った彼女に出家を決意させたのは、同業者で妻子ある井上光晴との7年もの道ならぬ恋。そしてその渦中にいた井上夫妻の長女(当時5歳)井上荒野さん。成長し、父や寂聴さんと同じ小説家となり、2008年には第139回直木賞受賞作家となりました。
そんな井上荒野さんが満を辞して自ら、父親である光晴氏と寂聴、母親らをモデルに綴った傑作小説「あちらにいる鬼」(19) を執筆しました。その心中を想像するや、もはや常人には理解し難い芸術家のそれなのかと思われます。そしてその執筆に誰よりも協力的だったのが当事者の瀬戸内寂聴さんであったというのもまた、とても興味深い事実でした。
出版された井上荒野さん著「あちらにいる鬼」へ瀬戸内寂聴さんが寄稿した帯の文言
瀬戸内寂聴さんの生き方については、常に賛否両論ありますが、私は個人的に出家されてからの寂聴さんが大好きだったので、この作品を観てみたいと思いました。
ストーリーは、
人気作家の長内みはる(寺島しのぶ)は戦後派を代表する作家・白木篤郎(豊川悦司)と講演旅行をきっかけに知り合い、男女の仲になります。一方、白木の妻・笙子(広末涼子)は夫の奔放な女性関係を黙認することで平穏な夫婦生活を続けていました。しかしみはるにとって白木は体だけの関係にとどまらず、「書くこと」を通してつながることで、かけがえのない存在となっていくのです。
瀬戸内寂聴をモデルにした長内みはるを寺島しのぶが、井上光晴をモデルにした白木篤郎を豊川悦司が演じ、また白木の妻・笙子を広末涼子が演じます。「ヴァイブレータ」「やわらかい生活」の廣木隆一が監督、荒井晴彦が脚本を担当しています。
振り切った演技が冴える寺島しのぶさんですが、剃髪姿がなんとも美しい…。
で、
感想です。
この小説の是非を今更問うこと、
また、どこまでが事実でどこからがフィクションなのかという問い自体も
ナンセンスだと私は思います。
この映画が
実に興味深いのは、
有名人の許されざる恋という実話がもとになっていることそれ自体であり、
またその実話を書いたのが、まぎれもない当事者の娘井上荒野さんであるということ。
そしてその当事者である寂聴さんが、
誰よりもその小説化に前向きであり協力的であったということ。
こんな特殊な関係性は
きっとどこにでもあるものではないし
誰にでも理解できるものでもない。
その事実そのものが、もはや奇跡
「失楽園」を思わせる海辺のシーン
そしてきっと、
この小説の映画化を天国の寂聴さんは、
「私、こんなきれいに撮ってもらって~」
「篤郎(光晴)さんもこんなイケメンちゃうわ~」
とかいいながら
目を細めて笑ってみているような気がするのは、私だけでしょうか…
狂おしいほど誰かを愛すること
自分のものにならない苦しみ
愛おしくて憎らしい存在
誰かに申し訳なくて消えてしまいたい自分
酸いも甘いもすべてを経験し
すべてを受け入れ、すべてを捨ててきた
瀬戸内寂聴さんだからこそ
未熟だった自分の人生をも丸ごと愛し
笑って許すことができたのではないか?
そんなふうに
私は思いましたよ
最後に
我が家の今年のカレンダーがちょうど
寂聴さんのちょっといい言葉集だったので
いくつかご紹介します
※瀬戸内寂聴日めくりカレンダー「幸せを引き寄せる62の言葉」より
がんばらなくていいのです。まず自分で自分を大切にしましょう。
人生、何があるかわかりません。哀しいこともあれば、「まさか」という素晴らしい坂もあります。だから、何があっても、絶望しないように。
自分が好きなことを一生懸命にやっていれば、たとえ周囲からみとめられなくても満足感は残ります。その満たされた心が輝き、あなたの魅力が光ってきます。
周りの人達の幸せを願えるような心のゆとりを、いつも持っていたいものですね。
「私がやれば大丈夫」「きっと何とかなる」というプラス思考が大事です。自己暗示をかけるのも成功の秘訣ですよ
自分が幸せになりたいならば、他人の幸せを考えることから始めましょう。
わだかまりを捨てると、心に風が吹きこみます。心に風が吹くと、不幸を吹き飛ばします。
素直になると楽ですよ。雨が降ってきたことに腹を立てても仕方がありません。「雨だ。傘を差そう」と思えばいいことです。
私は、自分らしく生きることが青春だと思います。年齢は関係ありません。
自分のためではなく、誰かのために祈りましょう。誰かのための祈りは必ず報われ、誰かの笑顔があなたを幸せにします。
前半生を、恋に仕事に波瀾万丈に生き
後半生を仏道とともに執筆に講演にと
穏やかに和やかに生きた
瀬戸内寂聴さんの言葉だからこそ
重みと実感が胸に響きます。
残念ながら、
すべての人には響きません。
R38指定くらいかしら
妻として母として生きる、女として生きる
男として生きる、夫として父として生きる
誰しもが通る道、正解は誰にもわからない
刺さる人には刺さる映画
この映画の味わいが分かるようになったら、
隠れ年齢オーバー50かもね
★★★☆☆(星3.4)
鑑賞日時
2022年11月16日
Tジョイ京都
2022年製作/139分/R15+/日本
配給:ハピネットファントム・スタジオ
瀬戸内寂聴(三谷/瀬戸内 晴美)
1922年5月15日生 徳島県出身 牡牛座 A型
日本の小説家、天台宗の尼僧。俗名:晴美。僧位は権大僧正。1997年文化功労者、2006年文化勲章。天台寺名誉住職、徳島市名誉市民、京都市名誉市民、二戸市名誉市民。位階は従三位。天台寺住職、比叡山延暦寺禅光坊住職、敦賀女子短期大学学長を務めた。
作家としての代表作は、『夏の終り』『花に問え』『場所』など多数。1988年以降は『源氏物語』に関連する著作が多く、新潮同人雑誌賞を皮切りに、女流文学賞、谷崎潤一郎賞、野間文芸賞などを受賞した。
井上荒野(いのうえあれの)
1961年2月4日生 東京都出身 水瓶座 A型
日本の小説家。小説家井上光晴の長女。
1989年、「わたしのヌレエフ」で第1回フェミナ賞(学習研究社『季刊フェミナ』による)を受賞するが、その後体調不良などで小説を書けなくなる。絵本の翻訳などをしていたが、2001年に『もう切るわ』で再起。2004年、『潤一』で第11回島清恋愛文学賞、2008年、『切羽へ』で第139回直木賞受賞。2011年、『そこへ行くな』で第6回中央公論文芸賞受賞。2016年、『赤へ』で第29回柴田錬三郎賞受賞。2018年、『その話は今日はやめておきましょう』で第35回織田作之助賞受賞。
実父、光晴は尼・文筆家の瀬戸内寂聴と不倫関係にあったが、瀬戸内と井上の間には長く親交があった。
井上荒野さん特集記事
「好書好日」掲載記事から (2019.02.08)
映画「あちらにいる鬼」公式サイトはコチラ
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映画「あちらにいる鬼」本編映像はコチラ