慢性甲状腺炎(橋本病)は甲状腺ホルモンが出にくくなってしまう可能性のある病気です。甲状腺ホルモン値が正常なら治療は不要ですが、ホルモンが出なくなる、つまり甲状腺機能低下症になった場合、甲状腺ホルモン補充療法が必要になります。

 

 甲状腺ホルモン補充療法を行っている患者さんから、「私は橋本病ですか?」と聞かれることがよくあります。「甲状腺ホルモン剤内服=橋本病」と思っている人がかなり多い印象です。もちろん橋本病による甲状腺機能低下症で内服している人は多いのですが、全く異なる理由で飲んでいる人もいるのです。例えば、甲状腺全摘術後に甲状腺ホルモン剤を内服しているのに、自分はホルモン剤を内服しているのだから橋本病だと思っている人も多いようです。

 

 甲状腺ホルモンが出なくなる原因は複数存在します。最も頻度が高く代表的な病気は慢性甲状腺炎(橋本病)ですが、それ以外にもいろいろな病態があります。

 

 慢性甲状腺炎(橋本病)以外で甲状腺ホルモン補充療法が必要な状態を挙げてみます。

 

・手術で甲状腺を切除した場合

 甲状腺全摘術の場合は補充療法が必須です。片葉切除後でも補充療法が必要な場合があります。この場合、「術後甲状腺機能低下症」という診断になります。

 

・バセドウ病でアイソトープ治療を行った場合

 バセドウ病で放射性ヨウ素内用療法(アイソトープ治療)を行うと、多くの場合は機能低下症になり、補充療法が必要です。この場合は、「アイソトープ治療後(放射線治療後)の甲状腺機能低下症」となります。

 

・甲状腺炎後の場合

 無痛性甲状腺炎によって甲状腺機能が低下し、それが遷延している場合も補充療法が行われます。亜急性甲状腺炎後の低下症も同様です。先行する炎症が診断されている場合は原因がはっきりしますが、いつの間にか炎症が起きて、知らぬ間に炎症が終息している場合もあります。原因がよくわからない機能低下症には、このようなケース(甲状腺炎後の低下症)が含まれるかもしれません。

 

・先天的な機能低下症の場合

 生まれつき機能低下症であるケースで、甲状腺形成異常や遺伝子異常などによる低下症です。先天性甲状腺機能低下症という診断名になります。

 

 

 一方で、甲状腺ホルモン抑制療法(チアマゾールやプロピルチオウラシルによる治療)を行っている場合は、ほぼバセドウ病と考えていいでしょう。機能性甲状腺結節に対して使用されることもありますが、比較的まれだと思われます。

 甲状腺に結節がある患者さんからよく聞かれることですが、「私のしこりはいくつあるのですか?」と結節の個数を質問されることがあります。実は個数を把握することは結構大変なことなのです。

 

 甲状腺内の結節が数個程度なら、把握するのは容易ですので、何個あるかの質問に答えるのは難しくありません。

 

 甲状腺にしこりができる病気で最も多いのは腺腫様甲状腺腫です。腺腫様甲状腺腫は、1個だけできる方もいますが、複数できることのほうが圧倒的に多く、数えきれないくらい多くの結節ができることもまれではありません。また、境界がはっきりしないことも多く、どこからどこまでが一つのしこりなのかという判断も難しい場合があります。甲状腺は絵で描くと平面ですが、実際には立体です。超音波検査は面で立体を把握する検査ですので、特に複数存在する、しかも境界部分がはっきりしないような結節を把握するのはかなり困難です。多くの結節が存在する場合、検査する医師や技師次第で結節の個数が変わることは珍しいことではありません。

 

 多発する甲状腺結節の診断で重要なのは個数ではなく、それぞれの結節を見て増大していないのか、悪性を疑う所見がないのかどうかを判断することです。したがって、個数を気にするよりも、それぞれの超音波所見の変化について確認することが重要です。

 甲状腺機能低下症で甲状腺ホルモン剤内服中の方、あるいはバセドウ病で抗甲状腺薬内服中の方、服薬状況は診察時に正直にお話ください。しっかり飲めていないことが分かってしまうと怒られると思い、飲み忘れが多いにもかかわらず毎日飲んでいると言ってしまう方がいるようです。甲状腺機能が安定しているならいいのですが、数値が悪いと薬が増量されてしまい、いつの間にか過量投与になってしまいます。

 

 小児の患者さんでときどきいるのですが、甲状腺ホルモン補充中、投薬量を変えていないのに突然甲状腺中毒症になっていることがあります。話を聞くと、以前は飲み忘れが多かったのに、成長して薬にも慣れて内服がしっかりできるようになったとのこと。つまり、飲み忘れが多かったので、投与量が多めでちょうど良くコントロールできていた、ということのようです。

 

 内服状況に応じて内服量を調節するので、つい飲み忘れが多くなりがちな方は正直にお話しください。また、体調に応じて自分で内服量を調節する方がいますが、自分では調節しないようにしてください。

 

 毎日薬を飲むように言われても、飲み忘れることはよくあることだと思います。私は今のところ毎日飲まなければならないような薬はありませんが、将来飲むことになった時、忘れずに飲む自信はありません。

 甲状腺にしこりができた場合の診断名についてのお話です。

 

 甲状腺にしこりができた患者さんから、「私の病名は何ですか?」と聞かれます。甲状腺のしこりの病名は、実はなかなか複雑です。甲状腺に腫瘍ができたのだから、とりあえず「甲状腺腫瘍」でいいのではないか、と思われる方もいるでしょう。でもそう単純な話ではありません。

 

 悪性のしこりについてはあまり悩む必要はありません。甲状腺がん、甲状腺乳頭がん、甲状腺濾胞がんなど、診断名はそれぞれはっきりしていて、迷うものはありません。

 

 難しいのは良性のしこりです。他院で診断された患者さんに話を聞いてみると、いろいろな病名が出てきます。甲状腺腫瘍、甲状腺腫、腺腫様甲状腺腫、結節性甲状腺腫、濾胞性腫瘍、濾胞腺腫などが多いのではないでしょうか。これらの病名の使い分けについて説明いたします。

 

 私はしこりができている患者さんについては、とりあえず「結節性甲状腺腫」という診断名にしています。「結節(しこり)ができるタイプの甲状腺の腫れ」という意味ですので、便利な診断名です。その中に、良性や悪性のものがあるということになります。

 

 では何で「甲状腺腫瘍」と言わないのか。別に悪いわけではないのですが、実は正確な表現ではありません。

 

 甲状腺にできるしこりの中では最も多く、良性の代表ともいうべき病気が腺腫様甲状腺腫です。この腺腫様甲状腺腫、実は「腫瘍」ではありません。病理学(顕微鏡レベルでの診断学)的には、「腫瘍のような病変」となります。良性のしこりでは腺腫様甲状腺腫が圧倒的に多いので、とりあえず「甲状腺腫瘍」と言うのは適切ではないのです。さらに、腺腫様甲状腺腫というのは、病理診断名です。つまり顕微鏡で見た上での診断ですから、超音波検査のみで腺腫様甲状腺腫という診断はできません。正確には「腺腫様甲状腺腫の疑い」となります。術後の病理診断によってのみ、「腺腫様甲状腺腫」が確定します。

 

 濾胞性腫瘍には良性と悪性が存在します。良性のものを「濾胞腺腫」、悪性のものを「濾胞癌」といい、これらは「腫瘍」に分類されます。病理診断による病名ですので、腺腫様甲状腺腫と同様に超音波検査だけでは診断できません。また、手術をしなければ、良性か悪性かの区別もできません。超音波診断では、「濾胞性腫瘍の疑い」までになります。

 

 良性のしこりは腺腫様甲状腺腫と濾胞腺腫の二つだけといってもいいでしょう(それ以外は極めてまれです)。私の場合ですが、しこりができたらとりあえず「結節性甲状腺腫」とし、超音波所見や細胞診を参考に、「腺腫様甲状腺腫の疑い」、「濾胞性腫瘍の疑い」というふうに説明しています。

 

 しかし、以上のように厳密な表現をしようとすると分かりにくくなってしまいます。より分かりやすく説明するために、腺腫様甲状腺腫のことを「甲状腺腫瘍です」と言ったり、病理診断がなくても「腺腫様甲状腺腫です」と言ってしまったりすることもあります。

 

 良性結節の病名について簡単に説明いたしました。参考にしていただければ幸いです。

 甲状腺の病気もいろいろありますが、超音波検査で劇的な変化を認める疾患があります。良性疾患の代表は亜急性甲状腺炎でしょう。悪性疾患の代表は未分化癌ですが、当院ではまだ経験がありませんので、亜急性甲状腺炎の超音波画像をご紹介いたします。

 

 亜急性甲状腺炎という病気ですが、甲状腺に炎症が起きて甲状腺が腫大し、その部位に痛みが生じます。患者さんは炎症が起きた状態で受診されますので、最初はその方の正常甲状腺の状態がわかりません。炎症が治まった後に超音波検査をすると、本来の甲状腺の状態が観察されます。その変化が劇的ですので、ぜひご覧ください。3名の患者さんの超音波画像をお見せします。

 

 上は炎症時の画像、下は炎症が治まって正常化した(と思われる)画像です。ほぼ同じ部位の画像です。一応、甲状腺の領域を黄色の線で囲っておきます。

 

Aさん

 

 

Bさん

 

 

Cさん

 

 

 ものすごい変化だと思いませんか。この変化を患者さん本人に見せると、たいていの方は驚きます。