甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS、レボチロキシン)はいつ飲んだらよいか?の記事を書いてから2年たちましたが、相変わらず「甲状腺ホルモン剤はいつ飲んでもいいです」と言っています。でも薬の吸収が良いのは空腹時ですので、不妊治療中などでしっかりとコントロールしたい患者さんには原則として起床時内服を勧めています。

 

 「寝る前」に内服するように言われることがありますが、寝る前が必ずしも空腹とは限らないこと、朝に内服していれば、その時飲み忘れても昼や夜に飲むことができることを考えると、起床時に内服というのがいいと思います(1日飲み忘れても、翌日に倍量内服して問題ありませんので、「寝る前」内服でも悪くはありません)。

 

 胃薬や鉄剤などは、同時に服用すると甲状腺ホルモン剤の吸収が悪くなると言われています。調子が悪いときに数回胃薬を飲む程度なら、同時に飲んでも大した影響はありませんが、定期的に内服しているような場合は、時間をずらして飲んだほうがいいでしょう。たいていの場合、甲状腺ホルモン剤の内服時間を変えることになります。

 

 現在、食後に内服していたり、胃薬などと一緒に内服していたりする方で、甲状腺機能が安定しているのであれば、内服のタイミングをわざわざ変更する必要はありません。

 

 ここまで読んでいただくと、やっぱり「いつ飲んでもいいんじゃないか」と思うのではないでしょうか。

 

 甲状腺ホルモン剤を内服中に甲状腺機能が変動してしまうのは、内服がしっかりできていないのが大きな原因です。きちんと飲めないのであれば、週に1回、1週間分の薬をまとめて飲んでも問題ないという報告もあるくらいです(あまりお勧めしませんが)。

 

 飲み忘れの多い方には、とりあえずいつでもいいので1日1回は飲むように、とお話ししています。薬を飲むタイミングには、あまり神経質にならなくてもいいと思います。

 穿刺経路再発の診断方法です。多くは細胞診で悪性と診断されているはずですから、甲状腺切除が行われている場合がほとんどです。術前にはなかった皮下腫瘤や筋肉内の腫瘤が増大傾向を示し、それが以前細胞診をした部位の近く(腫瘍があったはずの部位)にある場合、穿刺経路再発が疑われます。また、腫瘤の細胞診も有効で、細胞を生理食塩水に溶かして、そのサイログロブリン値を測定するのも診断に役立ちます。

 

 ところで今書いた「穿刺経路再発に対する細胞診」って、なんか変だと思いませんか。

 

 でも実際にやられています。私は変だと思います。以前、穿刺経路再発を起こした患者さんから、「細胞診で再発したのに、細胞診したらまたあとで再発しませんか?」と言われました。実は私もそれまで普通に細胞診をしていましたが、それ以降は原則として細胞診はやめました。状況から穿刺経路再発なのは明らかですから。細胞診しなくても、ほぼ診断は間違いありません。万が一、再発ではなかったとしても、原因不明の増大する皮下腫瘤を切除することは全く問題ありません。

 

 では実際に細胞診して、穿刺経路再発がもう一度再発することはあるのかというと、そんなことはほとんどありません。多くは皮下腫瘤として再発するのですが、切除する際に直上の皮膚も一緒に切除することが多いのです。穿刺経路も含めて切除することになりますので、もう一度再発してしまうかもしれないという心配は不要です。

 

 

関連記事:甲状腺濾胞癌の術前診断

 腫瘍に針を刺して細胞を採取し、顕微鏡で細胞を観察して良性悪性を判断する検査を穿刺吸引細胞診といいます。

 

 腫瘍に針を刺して細胞をまき散らさないのか、という質問を時々受けます。臓器によっては細胞診をしてはならない場合もありますが、甲状腺腫瘍の場合はほとんど問題になりません。ちなみに甲状腺のすぐ近くにある副甲状腺の腫瘍に対しては、原則として細胞診は行ってはならないことになっています。

 

 先ほど甲状腺腫瘍に対する細胞診はほとんど問題にならないと書きましたが、実は「ほとんど」には意味があります。

 

 細胞診は体の表面から針を刺す検査です。したがって針が腫瘍に到達する前に、必ず皮膚や皮下組織、筋肉などを針が通過します。逆に針を抜くときにもそれらを通過することになります。針の中に入った腫瘍細胞が、針を抜くときに皮下組織や筋肉内にこぼれて、そこで腫瘍が生着して増殖、しこりとして認識できるようになる場合があります。これを穿刺経路再発と呼んでいます。

 

 穿刺経路再発を起こす腫瘍は悪性度が高いと考えられます。甲状腺悪性腫瘍は多くが穏やかな性質ですので、穿刺経路再発が起こる頻度はそう多くはありません(頻繁に起こるのなら、検査法を変えなければなりませんよね)。

 転移性甲状腺腫瘍の診断ですが、やはり超音波検査と細胞診が最も信頼できる検査です。ただし腫瘤を形成しないタイプの場合は、超音波検査では見落としに注意が必要です。他臓器への転移という扱いになりますので、全身検索のためにCT検査が行われます。そしてPET検査が大変役に立つと思われます。

 

 他の臓器から甲状腺に転移した腫瘍は、甲状腺そのものから発生した腫瘍とは全く異なるものです。したがって両者の治療法は全く違うものとなります。

 

 その治療法についてですが、確立した治療法というものはありません。他臓器への転移ですので、それぞれの原発巣(転移の元になっている腫瘍)の治療法に準じた対応になります。例えば、乳がんからの転移であれば、分子標的薬や抗がん剤、ホルモン治療薬による治療になるでしょう。

 

 全身検査の結果、甲状腺にしか転移を認めないという場合は、手術の対象になる場合があります。特に腫瘤を形成する腎がんなどで穏やかな性質の腫瘍なら、手術で摘出して長期間生存が期待できます。しかし他臓器転移ですので、一般的には切除すれば治ってしまうというものではありません。甲状腺以外の全身転移を伴うことも多く、残念ながら診断後はあまり良い経過にはならないことが多いようです。

 転移性甲状腺腫瘍の症状ですが、甲状腺にできたしこりを自覚する場合や、頸部のリンパ節腫大を指摘される場合などがあります。もちろん無症状で、他の検査で偶然発見される場合もあります。原発巣(転移の元になっている腫瘍)治療後の経過観察中であれば、無症状のうちに画像診断で発見されることも多いでしょう。

 

 私が経験した肺がんからの転移の患者さんは、甲状腺の異常が先に見つかり、後から胸部CTで肺がんが見つかったというケースでした。

 

 転移が甲状腺の広範囲に及ぶと、正常甲状腺組織が破壊されて一時的な甲状腺中毒症(甲状腺ホルモン過剰状態)となる場合があります。これは甲状腺内に蓄えられている甲状腺ホルモンが、組織の破壊によって血液中に漏れ出ることで起こります。そして甲状腺機能低下症に至ります。これは無痛性甲状腺炎の経過に似ています。無痛性甲状腺炎では、多くの場合は機能が正常化するのに対し、転移の場合は腫瘍によって甲状腺が完全に破壊されてしまうので、機能低下症は回復しないと思われます。

 

 このように甲状腺機能に異常が起こると、甲状腺中毒症の症状や低下症の症状を自覚する場合があります。