以前にも書きましたが、チアマゾール(商品名:メルカゾール)の添付文書(薬の説明書みたいなもの)には、現在行われている治療法とはだいぶかけ離れた投与方法が書かれています。

 

 

「チアマゾールとして、通常成人に対しては初期量1日30mgを3~4回に分割経口投与する。」

 

 最近では原則として15mgを投与することが多くなっています。そして分割投与する必要はありません。1日1回で大丈夫です。

 

 

「機能亢進症状がほぼ消失したなら、1~4週間ごとに漸減し、維持量1日5~10mgを1~2回に分割経口投与する。」

 

 機能亢進症状がほぼ消失するまで同じ量を内服していると、逆に機能低下症になってしまいます。症状ではなく、甲状腺機能検査を参考に内服量を減らしていきます。

 

 

「通常妊婦に対しては初期量1日15~30mgを3~4回に分割経口投与する。」

 

 妊娠初期には投与を避けるべきと言われていますが、そのことは書かれていません。

 

 

 添付文書の内容は容易に変更することができません。非常に古くからある薬なので、投与方法や注意点が変わっても、それを反映できないのは仕方がないことだと思います。心配なのは、あまり経験のない医師が添付文書に頼って処方してしまうことです。

 

 おそらく他の分野でも同じようなことがあるのだと思います。他人ごとではありませんね。私も気を付けたいと思います。

 慢性甲状腺炎(橋本病)の患者さんで、ヨウ素摂取をとても気にされる方が結構いらっしゃいます。そこで食品中のヨウ素含有量を調べてみました。

 

 文部科学省のWebページに日本食品標準成分表が掲載されています。可食部100gあたりのヨウ素含有量(単位はマイクログラム)は、

 

おきなわもずく(塩蔵・塩抜き) 140

ほしひじき(ゆで) 960

生わかめ 1600

焼きのり 2100

まこんぶ(素干し) 200000

 

 わかめ100gを食べることはあまりないでしょう。焼きのりを100g食べる人もいません。ヨウ素含有量が桁違いに多いのは昆布ですので、食事からのヨウ素の摂りすぎに気を付けるとしたら、現実的には昆布だけでよいことになります。

 

 また、同成分表には調味料の栄養素も記載されており、可食部100gあたりのヨウ素含有量(単位はマイクログラム)は、

昆布だし 5400

かつお・昆布だし 1500

 

 だそうです。

 

 厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書によると、ヨウ素の摂取量上限は1日あたり3mgとされています。

 

 昆布だしを毎日摂取すると、ヨウ素の摂りすぎになるようです(100gでヨウ素5.4mg)。しかしこのような食生活でも、特に甲状腺機能に異常がなければ、無理に食生活を変える必要はないと思います。少し機能低下気味だと言われている方は、合わせだしにしてみるなど、昆布摂取量を少し控えめにするといいかもしれません。

 妊娠中に甲状腺ホルモンが高いということで紹介されてくる患者さんがいます。甲状腺ホルモンが高いというだけで心配なのに、それに加えて妊娠中なわけですから、赤ちゃんに影響するのではないかとますます心配になりますよね。

 

 妊娠の初期に甲状腺ホルモンが高くなることがあります。甲状腺ホルモンが高値を示す代表的な病気はバセドウ病です。他にも無痛性甲状腺炎や機能性甲状腺結節などがありますが、多くの場合そのような病気ではありません。

 

 妊娠すると胎盤からヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)というホルモンが分泌されます。そんなホルモン聞いたことがないという方もいるかもしれませんが、尿からこのhCGを検出して妊娠の判定をするのが妊娠検査薬ですので、妊娠を経験された方ならみんな見ている(?)はずです。

 

 hCGは妊娠維持に重要な役割を果たしていますが、甲状腺を刺激する作用も持っています。そのためhCGの刺激によって甲状腺ホルモンが過剰に産生されます。これを妊娠時一過性甲状腺中毒症と呼びます。妊娠初期に起こりますので、通常のつわり症状に加えて、手の震え、体重減少、発汗などの甲状腺中毒症の症状が出現しますが、ほとんど無症状で気づかれないことも多いようです。

 

 甲状腺機能検査では、甲状腺ホルモン(FT4)が高値、甲状腺刺激ホルモン(TSH)が低値となりますが、FT4は正常でTSHのみが低値を示すということが多いようです。バセドウ病や機能性結節ではないことを確認する必要があるので、TRAb測定や超音波検査も行われます。

 

 病名にもある通り、一過性で自然に軽快しますので、原則として治療の必要はありません。だいたい妊娠10週をピークに、14週くらいまでには正常化してきます。赤ちゃんには影響ありませんのでご安心ください。甲状腺中毒症が重篤で症状が強い場合には、ヨウ化カリウムでの治療を考慮します。

 「甲状腺が大きくなってしまったバセドウ病患者さんへ」でも書きましたが、バセドウ病の患者さんで甲状腺があまりにも大きくなってしまった方は、もはや抗甲状腺薬では治すことができません。

 

 先日、治療が長期にわたるバセドウ病患者さんが受診されました。その方は、甲状腺の推定重量が200g近くあり、甲状腺機能も正常化されていませんでした。

 

 バセドウ病は甲状腺が大きくなるのが典型的ですが、治療を開始すると甲状腺が小さくなることが期待できます(でもあまり変わらないことが多いのですが)。しかし、治療しているにも関わらず、甲状腺がどんどん大きくなる方がいます。そのような方は、甲状腺機能のコントロールが難しく、抗甲状腺薬を増やしても甲状腺機能はなかなか正常化しません。そして何とかしてFT4値を正常化させることができても、FT3値は高値が持続することがあり、これをT3優位型バセドウ病と呼んでいます。そうなると内服薬で寛解させることは困難ですので、放射性ヨウ素内用療法や手術を考慮すべきでしょう。実際には、甲状腺はかなり大きくなっているので、手術が選択されることが多いと思います。

 

「甲状腺が大きくなってしまったバセドウ病の患者さんは、一度専門医にご相談ください。」

 

 と言いたいところですが、どうも患者さんは甲状腺が大きくなったということを自覚できないようです。まずそもそも正常の甲状腺の大きさを知らない、そして徐々に大きくなるので大きくなっていることに気づかない、のが理由だと思います。私から見ると甲状腺はかなり大きいのに、ご本人はまったく気づいていないということが結構あるのです。

 

「長期間治療しているにも関わらず、甲状腺機能が完全に正常化しないバセドウ病の患者さんは、一度専門医にご相談ください。」

 

が適切かもしれません。

 機能性甲状腺結節の治療についてのお話です。

 

 TSHだけが少し低い程度であれば、特に治療せずに経過観察となることも多いと思います。TSHが完全に抑制されている(血中に検出できないくらい低い)場合や、明らかな甲状腺中毒症の場合には治療が必要となります。

 

 治療方法は3つ、

 

・抗甲状腺薬

・放射性ヨウ素内用療法

・手術

 

です(ほかにもエタノール注入療法やラジオ波による治療法がありますが、あまり普及していません)。

 

 なんかバセドウ病の治療みたいですね。ただしバセドウ病と異なるのは、抗甲状腺薬は第一選択にならないという点です。抗甲状腺薬を使用すると、少量の内服で比較的早く甲状腺機能を正常化させることができます。しかし、中止するとまたホルモン値は高くなってしまいます。つまり根本的に治すことができないのです。

 

 手術による治療は確実です。首に傷ができること(内視鏡手術なら大丈夫です)、手術による合併症があること、機能性結節が両葉に存在する場合は甲状腺全摘になることなどがデメリットでしょう。

 

 私がお勧めするのは放射性ヨウ素内用療法、いわゆるアイソトープ治療と言われている方法です。放射線を出すカプセルを飲むだけの簡単な治療で、これといった副作用はありません。注意点は、治療後に機能低下症になる場合があること、時間がたってから機能低下になる可能性もあるので、長期間の経過観察が必要だという点です。妊娠希望の方や小さいお子さんと接する機会が多い場合も注意が必要です。

 

 甲状腺ホルモンを産生していない結節や、悪性を疑う結節を合併している場合は、治療方針が異なる場合がありますので、担当医と相談してください。