甲状腺乳頭癌の手術を受けた方から、術後はどれくらいの期間、通院しなければならないのかということをよく聞かれます。原則としてかなり長期間の通院が必要になります。

 

 甲状腺全摘後には生涯通院が必要です。甲状腺ホルモン剤の内服が必要だからです。甲状腺ホルモン剤は薬局やドラッグストアで気軽に購入できるものではありません。医師の処方箋が必要です。医療機関を受診、採血して甲状腺ホルモン値を測定、適切な量が内服できているのかを確認しなければなりません。

 

 葉切除や部分切除を受けた方の場合、正常甲状腺が残っていますので、体を維持するのに十分なホルモンを分泌できているのなら補充療法は不要です。しかし術後の検査で甲状腺機能低下症の状態が確認され、回復の見込みがない場合、甲状腺ホルモン補充療法が必要となります。甲状腺全摘術を受けた方と同様に、生涯にわたる補充療法が必要となります。

 

 乳頭癌がいくらおとなしい癌だとはいっても、悪性度が高く再発を繰り返す場合もあるので、再発や転移がないかどうかの経過観察が必要です。

 

 甲状腺ホルモン補充療法を受けている方は、生涯通院が必要ですので、受診の際に再発の有無を検査してもらえばいいでしょう。

 

 甲状腺ホルモン補充療法を受けていない方の場合ですが、何年間通院したほうがよいのかの明確な基準はなく、病院や医師によってかなり異なります。

 

 補充療法を受けていないということは、必ず甲状腺が残っているということであり、術前に再発の危険性が少ないと判断されていたはずです(再発の危険性が高い場合は全摘が推奨されます)。したがって、実際に再発することも少ないと思われますが、それでも長期間の経過観察が必要です。おとなしい癌ということは増殖速度がゆっくりであるということですから、リンパ節転移や遠隔転移が明らかになるには長い時間がかかるからです。

 

 私の場合ですが、術後10年間くらいは1年ごとの検査、その後は数年ごとに検査を受けるようにお話しすることが多いと思います(もちろん例外はあります)。では10年後以降は何年間経過をみればよいのか。実はその後はあまり明確にはお話ししていません。毎回診察の終わりに、「念のため次回も検査しましょう」となります。経験上、術後20年、30年経過してから再発してきた患者さんも診ていますので、なかなか「もう来なくていいです」とは言えないのです。しかし、長期間経過後に再発するのはかなりまれですので、そんなまれなことを見つけるためにすべての患者を巻き込むのか、と言われてしまうかもしれません。

 

 再発が心配な方はしっかりと通院してくれます。一方、通院を中断してしまう方もたくさんいらっしゃいますが、ほとんどの方はそれで大きな問題にはならないでしょう。術後10年以降は自己判断でいいのでは、とも思っています。

 診察の最初には必ず患者さんの訴えを聞くのですが、その時に「体調が悪い」とだけ言う方が大変多い印象です。「体調が悪い」には人それぞれいろいろありますので、具体的にどんな症状なのか分かりません。だるいのか、疲れやすいのか、あるいは気分が悪いのか、食欲がないのかなど、全部「体調不良」といえます。もちろんその後に「どのように悪いのか」と具体的に聞きますので、「体調が悪い」で問題ないのですが、具体的にお話しいただいたほうがスムーズです。

 

 また、具体的に話していればもっと簡単に診断されただろうという例を最近経験しました。

 

 発熱とのどの痛みのために、ある大きな病院の救急外来を受診された患者さんがいます。今の時期に発熱するとかなり面倒ですよね。その患者さんもいろいろ検査(血液検査、レントゲン、CTなど)されて最終的には新型コロナウイルスのPCR検査を受け、結果は陰性。解熱剤を出されて帰宅されましたが、何日たっても発熱が続き、同院の内科を受診されました。そこでやっとわかったようですが、「のどの痛み」はいわゆる咽頭痛ではなく、前頸部痛(甲状腺の痛み)だったのです。診断は亜急性甲状腺炎、ステロイド治療で直ちに解熱、痛みもなくなりました。

 

 今発熱すると、PCR検査陰性でも大変なことが起こります。その患者さんも2週間は会社に来るなと言われ、会社ではその方の座席の周辺が消毒されたそうです。

 

 このようなケースはまれではないはずです。私は2名の患者さんを経験しました。

 

 これは最初に診察した医師が悪いのです。「のどの痛み」の訴えの時に、前頸部を触診していないのです。発熱外来は忙しくて大変でしょうけど、しっかりと問診と触診をしていれば、このようなことにはならなかったはずです。しかしその時に単に「のどが痛い」ではなく、指で「この部分が痛い」とはっきりと伝えていれば、こんな面倒なことにはならなかったかもしれません。

 

 ご自身のためにも、訴えはしっかり具体的に伝えてください。

 当院を初めて受診される患者さんに、問診票の記入をお願いしています。ほとんどの医療機関で問診票を記入するようにお願いされると思いますが、問診票の中で必ずあるのが「今まで治療した、あるいは治療中の病気」を書く欄であり、最も重要な情報の一つです。

 

 大変詳しく書いてくれる方もいれば、治療中なのに空欄のままという方までいます。あまり詳しく書く必要はありませんが、とても重要な項目ですので、せめて病名くらいは書いていただきたいものです。

 

 高血圧で薬を飲んでいるにもかかわらず、病歴が空欄のままという方が結構いるようです。コレステロールの薬を飲んでいる方も同様です。血圧が高い、コレステロール高値も病気と認識して、きちんと記入してください。

 

 そしてこのような方があまりに多いので、問診票に(例:高血圧、高脂血症、喘息、・・・)などと例を列記するようにしました。「治療中なのに空欄」という状況が少しは変わるかと思いましたが、あまり改善はないようです。

 

 話は変わりますが、「問診票の内容を変える」となると、大きな病院だと大変な作業になりそうです。しかし小さなクリニックなら、ものすごく簡単にできてしまいます。私自身が自由に決められますから。問診票に限らず、病気の説明書なども変更は簡単です。当院の病気の説明書は、すでに何回もリニューアルしています。

 慢性甲状腺炎(橋本病)やバセドウ病で通院中の方から、「私の病気は新型コロナウイルスワクチン接種の基礎疾患に当たりますか?」という質問や問い合わせを受けることが多くなってきました。そこで、厚生労働省から出された文書を調べてみました。

 

 「第43回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会 予防接種基本方針部会」の2020年12月25日に出された文書がありました。これによると、新型インフルエンザにおける対応を参考に、各学会に優先接種についての意見を求めたようです。

 

 そこで、まずは新型インフルエンザワクチンの優先接種の対象で、甲状腺疾患に関係がありそうな項目を簡単にまとめてみました(小児科領域は省略します)。

 

・免疫抑制を伴う抗がん剤治療を受けているもしくは受ける予定の甲状腺がん患者

・内分泌臓器の悪性疾患にて放射線療法、あるいは化学療法中でその結果、甲状腺機能低下となった場合

・甲状腺機能が正常化していない甲状腺機能低下症(橋本病等)

・免疫抑制薬又は副腎皮質ステロイドホルモンを継続して使用中の者

 

 これを元に、各学会が新型コロナウイルス向けに修正案を出したようですが、甲状腺関連では特に修正はないような感じでした。

 

 甲状腺疾患で「基礎疾患あり」と認定され、優先接種の対象になりそうな状態は、

・進行甲状腺がんで抗がん剤や放射線により治療中あるいは治療予定

 現実的には、このような方のみではないでしょうか。

 

 甲状腺機能低下症は、ホルモン補充療法を行えば比較的速やかに改善できます。機能低下症で状態が悪く、ゆっくりと正常化させないといけない方はたいてい高齢者ですので、「基礎疾患あり」というよりも「高齢者」として優先接種されるでしょう。

 亜急性甲状腺炎でステロイド治療が必要な場合も、ごく短期間の治療ですので、優先とはならない気がします。

 今回記載は省略しましたが、小児科領域では「甲状腺機能亢進状態」が優先接種に入っているので、成人未治療バセドウ病は対象になるかもしれません(ただしこれに関する記載はありませんでした)。

 

 以上が私の現時点での見解です。参考にしていただければ幸いです。

 甲状腺結節の診断に重要なのは、超音波検査と穿刺吸引細胞診です。この二つの検査で、多くの結節が診断可能です。

 

 甲状腺結節に対する細胞診は、首に針を刺す検査ですから、大変心配される患者さんも多いのですが、通常は超音波で見ながら行いますので、合併症も少なく比較的安全な検査と言えるでしょう。しかし、まれではありますが、細胞診による合併症を経験することがあります。主なもの挙げて、簡単に説明します。怖いことがたくさん書いてあると思われるかもしれませんが、いずれもかなりまれですので、過剰に心配する必要はありません。

 

①     血腫

 針が血管に当たってしまい、甲状腺周囲に血液が漏れ出て、血液の塊が形成されます。圧迫することで多くは止血でき、時間がたてば血液は吸収されて、元通りになります。抗凝固薬や抗血小板薬を内服中の方は注意が必要です。動脈を傷つけてしまい、圧迫しても止血できない場合は、気道確保や緊急手術が必要になる場合もあります(かなりまれです)。

 

②     一過性の急性甲状腺腫脹

 針を刺した刺激によって、甲状腺全体が急速にむくんでしまい(浮腫)、圧迫感や飲みこみにくさを感じる場合があります。浮腫の原因は、アレルギー反応によるもの、炎症細胞が浮腫をきたす物質を放出するためなどが推測されていますが、はっきりとした原因は分かっていません。発生の予測もできません。1000人に1人くらいの頻度との報告があります。検査の数時間以内に発症し、ほとんどは1日以内に改善するようです。もしも浮腫が起きた場合は、冷却するのが最も簡単で効果的なようです。ステロイド薬を投与する場合もあります。

 

③     反回神経麻痺

 甲状腺背面を走行している反回神経を損傷してしまうと起こる合併症です。声がかすれてしまいます。神経を直接刺してしまって起こることはほとんどないと思われます。血腫ができて、それによる神経の圧迫などが原因でしょうか。

 甲状腺がんの細胞診後に反回神経麻痺を起こした患者さんを経験したことがあります。この方の場合、手術をしてみると、腫瘍が神経を完全に巻き込んで(浸潤といいます)いました。腫瘍が神経に浸潤していたり、接していたりする場合に、細胞診後の麻痺が起こりやすいのかもしれません。

 

④     感染

 細菌感染が起こる場合があります。場合によっては切開して膿を出す、あるいは甲状腺切除が必要になることがあります。

 

⑤     穿刺経路再発

 甲状腺がんの細胞診のときに起こる合併症です。穿刺針の中のがん細胞が皮下にこぼれて、それが増殖して腫瘤を形成します(細胞診による穿刺経路再発①も参照)。

 

⑥     気胸

 深い場所にあるリンパ節を穿刺するときに起こる可能性があります。深く針を刺すことで肺まで針が届いてしまい、肺(を覆っている膜)に穴が開いてしまう合併症です。場合によっては、胸にチューブを入れて、肺から漏れた空気を出す治療が必要です。甲状腺の穿刺では起こることはまずないでしょう。