門松 65
めでたさの初湯まづわきすぎしかな 久保田 万太郎
愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ。
愚者たるぼくの経験を、いささか皆様に披瀝したい。
ご存知であろうと思うが、やつがれの職業は、不動産の営業であ
る。巷では、悪徳不動産と言う蔑称を拝受している。でも、ぼく自身
は、悪徳という言葉に違和感を感じている。できるならば、強欲不
動産やのほうが、ぼくの本質を体現している。そんなぼくの、ささや
かな経験を、あなたに伝えたい。
不動産の営業と言っても、さまざまあって、ぼくは、おおむね中古
住宅を販売している。客層は、零細企業に勤めている低所得者が
多い。かかには、一円も所持していないのに客すらいる。
お客さんとはじめて会うと、必ず先ず車に目を留める。高級車に
乗ってくる客は、お金をもっていない。一人で見学に来る客もあま
り期待ができない。軽自動車に乗ってきたような客こそ本命である。
できれば、両親や家族全員で来る客がA客である。まづご挨拶をし
て何でこの物件を知ったか問う。次に、探している地域を聞く。家族
構成を、勿論訊く。お客さんから、できるだけ沢山の情報を手に入れ
ることが、ことのほか肝要である。お客さんの答える言葉で、気に入
っているか否かが大体判る。気に入ってないのに、買わすように促
しても無駄におわる。
徳島には、大企業がないので、ほとんどが中小でもなく、零細企業
であるが、もちろん給料も安く、おおくが年収三百万円前後だが、意
外とこういうところに勤めている人のほうが、お金を貯めている。不
安定だし給料が安いので倹約しているのだ。かえって、安定した、
そして給料の高い公務員が、意外にもお金を持っていない。油断し
て使うからだ。こんなところが、愚者たるぼくの経験知である。