柿一個 692
どの道も秋の夜白し草の中 渡邊 水巴
いやはや、はなはだ慙愧にたえませんね。なにがってねこちゃん
でさぁ~。あちきの家に野良ちゃんが時々来るんだよね。こいつが
さ、可愛いやつでさ、おいら可愛がっているんだけどね、ねこちゃん
気まぐれでさ、来たり来なかったりするんだよね。これはさ、いたし
かたないと観念しているのだけどさ、ねこちゃんてさ、ほかの家にも
行っているみたいなのさ。とくにさ、井上さんのお家によく行っている
みたいだんなな。たしかにさ、井上さんはさ、後家さんでさ、ねこちゃ
んややわんちゃんにやさしいんだけどさ、おいらは嫉妬しているの
ではないんだけれど、ねこちゃんがもっときてほしいだよね。餌もさ、
コメリでたくさん買ってきているんだもん。ねこちゃんの鳴き声が聞
えると、嬉しくなるんだよね。可愛いやっさ、本当だよ。だからもっと
ねこちゃんに来てもらいたいんだよね。だからはなはだ忸怩としたの
さ。これって言葉を間違って使っちゃったのかな?あれれ、おいら無
学だからさ、あんまり言葉って知らないんだよね。だから適当に言葉
を使っているんだよね。ようするにいい加減なのさ。はなはだ慙愧に
堪えないんだよね。あれれ、また云っちゃった。どうやら慙愧が意味
も解さず使ってみたいんだよね。こういううことを慙愧にたえないと云
うんだろうか。あれれ、また云っちゃった。はなはだ慙愧にたえないと
云わざるをえないよね。どこまでいっても慙愧にたえないよね。