_ 阿弥陀仏と菫 278
春の雪とは、三島由紀夫だが、今日は春の雨である
ので、字面のあでやかさはいささか挌下である。
言葉の遊戯poetryがゲームになる百人一首は、日本
ならでわの類まれなる世界に誇る文化である。
中国では古代より詩歌が重んじられ、小説は大衆の読
み物として、下段に評価された。日本もそれに習い、万葉
集を嚆矢として、古今集、そして新古今とつながり、和歌を
巧みに詠めることこそ人格の評価につながる重要なファク
ターfactorだったのである。
金色夜叉に富豪の富山唯継とお宮の出会いの場が、ぼ
くの記憶に間違いがなければ、百人一首の場であった。封建
道徳が健在だった明治期においては、男女の逢瀬ははなは
だ困難で、百人一首でも介さないと不可能だった。そのおか
げで貫一は振られるのである。憎しや百人一首である。
今は昔の、信じがたい、のほほんとした失恋の話である。