_ 阿弥陀仏と菫 265
山芋がはんぶんのこっていたので、やはりとろろ汁に
することにした。レシピなんてないに等しい。おそばを茹で
て濯ぐ。次に、山芋をすりおろし、だし汁に醤油と味醂を入
れた中に、摩り下ろした山芋を入れてよく攪拌し、それをお
そばを入れた丼にかけるのである。そして丼の淵にわさび
を塗りつけて、おそばのうえにたっぷりと味付けもみのりを
のせて食べるのである。
先日、永井荷風に少しくふれた。荷風は雅号である。本
命は壮吉であろ。ではなぜこの雅号が生まれたのであろう
か。荷風が尋常中学のころ、病を患った。その折、帝大病
院に入院したが、そのとき親切にしてくれたお蓮という名の
看護婦に、少年荷風は初恋をいだいた。以来荷風の女性
観は形成されていったのであろう。荷風の荷の字は蓮の謂
である。初恋の看護婦お蓮さんの名を雅号に留めたのであ
る。蓮より吹きくる風、というわけだ。