天国への階段 9
苦難と栄光の歴史。なんて書くと、古色蒼然たる
キヤッチコピーになるが、京大は平成23年創立11
4周年を迎えた。官僚養成機関に堕した東京帝国大
学に刺激を与えるため、いや、東京遷都後の京都の
不平分子を吸収するのがねらいともいわれる。それ
はともかく、京大の歩みそのものは、つねに青春の息
吹に満ちていた。その流れに開花した学術・文化の花
は、京都・関西はもちろん、日本全土をうるおしたとい
ってもいいだろう。
高橋和巳は一見、繊細なインテリー・タイプだが、の
っそりとした長身からは、坊ちゃんムードも漂う。京大
在学中、破防法反対ストで学友が処分されかかったの
にハラを立て、ハンストを5日間も続けたことがある。反
骨精神に富んだ人物だ。ドストエフスキーに感激、埴谷
雄高、野間宏、椎名麟三、大岡昇平ら、いわゆる戦後派
の作品を読み漁り、その集積が創作活動のきっかけを
作った。
京都が、文学不毛の地と言われてから久しい。京都を
舞台にして書かれた作品は多いが、京都を描き切った作
家はいない。あまりにも屈折の多い京都人の性格や、極
端に人工のくわえられた自然を描くには、エトランゼの目
は感傷的すぎるのだ。そんな意味で地元に根を張った高
橋和巳のような存在がまたれるのである。