天国への階段 8
東山が鴨川に向かって緩やかに張り出したあたり、
東福寺は月輪山山麓の渓谷に臨む景勝の地にある。
境内およそ二十万平方メートル。洛東のはずれ、ここ
はもう京都のゴバン目圏をはずれている。おそろしく広
い境内は、うっかりすると方向をもとまどわせかねない。
広々としたという気のよさは、だがここの境内にはな
い。人の手を尽くしきれないままであるのを、荒廃ともい
いがたい。人工がすでに自然を身につけてしまったのだ。
それはもう、人の及ぶところではない。この禅寺はだから
ペンペン草がはえるのにも無頓着だ。ひょうひようとして
いる。
通天橋を登りつめて開山堂につくと、とりつくしまのなか
った東福寺のイメージは、あっさりぬぐい去らなければな
らない。門をくぐって右に池泉、左に枯山水。屋上の桜閣
が門の真正面にはいると、緊張した美の空間が生まれる。
晩秋の寒さに通天橋を渡ってきたものに、はっと息をのま
せるのは、落ちつきはらった堂と庭のたたずまいだ。日の
光が堂をてらして、庭にながく黒い影を描き、静寂を極限
にまで緊張させている。冬の気配がまじかに感じる東福寺
である。