隅田川 9
随分昔になるが、ほとんど京都に何も感心もなく、また
知識すらもちあわせなきころ、それでも東京の行き帰り
に京都を通過するとき、いやでも目に入る建物があった。
それが五重塔である。東京タワーがそうであるように、そ
の建物を見るにつけなんともその俗物的存在に、なにや
ら安手のお土産のごときありさまにおもいへきへきとした
記憶があるのだが、無知と言うのは恐ろしいものである。
それが東寺の由緒ある建物であることを知ったのは最近
のことである。
現存の塔婆中で最高の高さを誇る五重塔は、正保元年
(1644)に徳川家光によって再建されたものだ。その威容
は、いまも京のシンボルたるに恥じない、のだそうだがいや
はやである。なにがいやはやかといえば、聖なるものと俗な
るものは紙一重なることを思い知らされたことである。
おびただしいハトが境内にいこう。今もまた、心からの安
らぎを常にもちうるほどに平らかな時代を希求すれども、い
つの世も人心は揺れ動き、そのさまを塔は見つめていたの
であろうか。しだいに増えてゆく想い出のおちこちを、蝶のよ
うにとりとめもなく飛び回りながら生きながらえていく人々に、
塔はなにを語ろうとしているのだろうか。