驟雨と毬 4
秋風庭樹を騒がすこと頻なり。阿波のかのち脇町とやらに、
われ一人広大な邸内に寝そべりて本を読まんとす。手にする
本は幸田露伴なり。ページを開けば風流仏なる活字が目に
飛び込む。なになに、三尊四天王十二童子十六羅漢さては
五百羅漢までを胸中に蔵めて鉈小刀に彫り浮かべる腕前に、
とここまで読んで本を投げ出した。実に面白くない。あァやめ
たやめた、本なんかちっとも面白くない。退屈なので眠る事に
しょう。お客さんが来たら起こしてくれるだろう。すやすやー
目が覚めたらぼくは東京の世田谷区瀬田の学生下宿にい
た。起きたとて何もすることはない。近くの多摩美にでも行っ
てナンパでもしょうかな、と思ったがこの間の失敗を思い出し
た。
半月ばかし前の事である。美大生を装ってミニスカートに声
をかけた。芝生に二人座って雑談をしていて、彼女から池田
満寿夫の感想を訊かれた。訊かれたってぼくにはわからない。
でも何とか言わなくてはならぬ。「あのさ、ぼく新興宗教のこと
詳しくないんだ」と言うと「あなた最低ね」と言われて去って行っ
た。ぼくは悄然として彼女の後姿を見送った。彼女が後に歌手
になったのではないかとテレビを観ていて気付いた。
おじさん、起きてよおじさん。の声にぼくは目を覚ました。お客
さんだ。「おはようございます」ぼくは寝ぼけ声で挨拶をした。