鰻と犬 14
今日の仕事は、残暑が邪魔してつらかった。じっと
していても汗が目に入り、ハンカチでぬぐってもぬぐ
っても絶え間なく汗があふれ、体内の水分がなくなる
のではないかといった心配が脳裏を一瞬よぎった。
ぼくは仕事は嫌いではない。労働の喜びなんても
のはさらさらもちあわせてはないが、働いたあとの
心地よい疲れはなにものにも代えがたい。古の偉
人はこのような心理状態を、ぼくの記憶違いでなけ
ればかるみ、となずけていたと思う。太宰治の本の
なかに書かれていた。
かるみであってはるみでない。なんだか都はるみ
に似ているが、かるみなのである。わび・さび・しお
り、そしてかるみなのである。
芭蕉が創作した最高の概念らしい。働いて働いて、
もう欲も得もない心の状態をかるみと、そう芭蕉はな
ずけた。
今日ぼくはかるみを経験した。残暑のなかのたま
らない労働の中で、崇高なる賢人が発見した概念、
かるみをありがたくも体得させていただいた。ギャラ
を頂くよりも、むしろ授業料を差し上げたい気持ちで
あるが、それはレトリックで、やはりギャラは無情に
も頂く。それが常道である。