鰻と犬 2
今は昔、台風一過を一家と勘違いをして、そう言う
アウトローの組があるのかと思ったことがあったが、
これは向田邦子の野中の薔薇を、夜中の薔薇と聞
き違いしたことに比べ、はなはだ叙情性に欠けるき
らいがある。そのへんがぼくと向田女史との、おなじ
間違いにしても才能の相違を物語るエピソードであ
る。
ぼくは向田邦子が大好きで、彼女の作品のほとん
どをよんでいると思うが、とりわけ思い出トランプの
かわうそがお気に入りで、彼女の文章の秘密が知
りたくて何度もノートに書き写した。
指先から煙草が落ちたのは、月曜の夕方だった。
で始まるかわうそはこの一行で、読者の心をわしづ
かみにしてしまう。ごぞんじのように向田邦子の世界
はホームドラマなので、普通の家庭におきる出来事
しかおきない。正義の味方も悪漢もでてきないし、殺
人もバイオレンスもない。ただ平凡に生きている人々
が誰でも経験することばかりであるが、それを読者が
飽きないように物語を描いているのは、向田邦子の技
である。
向田邦子はぼくより随分年上であるが、いい女である。
たまたま同時代に生まれたのに、一度もあえないなんて、
彼女の早世を思うと、かえすがえすも無念の感慨にとらわ
れてしまう。ほんまじょ。