流転と啓示 29
サムエルソンは20代の頃から実に多くの、しかも
画期的な研究成果を論文にまとめ、世に問うてきた。
景気変動分析のツールとして経済学の常識を塗り替
えた「乗数分析と加速度原理の相互作用」も、20代
の頃に書かれたものである。論文の数のみならず、
研究分野の広さでも他の追随を許さなかった。消費
者行動、動学理論、国際経済学に厚生経済学。古
典研究もあれば、政策理論もある。
数理経済学の分野にはワルラスという偉大な先駆
者がいるが、数学を初めて本格的に駆使して経済理
論を打ち立てたのは、サムエルソンより一回り年上の
ヒックスである。ヒックスが主著「価値と資本」を出版し
たのは1939年。しかし多くの経済学者は、微分・積
分や線形代数もろくに分からず「価値と資本」を理解
するのに手こずったのである。
サムエルソンこそケインズ解釈の第一人者である。
あまりにも難解なケインズの理論を本人に代って読み
解いたのが、サムエルソンの最大にして最高の業績
一つである。
ケインズは、投資が国民所得に与える影響を分析す
るためのツールとして乗数理論を編み出した。投資が
所得を刺激し、所得を増大させる。その着眼は画期的
だが、ケインズが感心をもっていたのは、それが何処で
均衡するかという事。そのためケインズの分析は、投資
から所得への波及効果だけに集中していた。 つづく