ふらふらの記 21
また朝である。生まれて何度目のアサであろうか。計算すればすぐにわかる
が、しらないほがいいような気がしてやめた。知るということは、そのことにより
苦しみを背負うこともあり、かねがね、ぼくのなかのもうひとりのぼくが、ぼくにう
たた注意をうながしていたが、せんなき性にて、あまつさえ天邪鬼の片方のぼく
は、いよいよウィトゲンシュタインが放ったテーゼ、語リえぬことについては、人
は沈黙しなければならない。を無謀にも無視をなし、宇宙の虚空を言葉であや
なし、神をも恐れぬすっくたる矜持は、さてさてわが内なる世界といえど痛し痒
し。と腕を掻いていたら、目が覚めた。
女の夢を見なくなって久しい。いにしえのぼくの頭のなかは裸の女で寿司ず
め状態だった。あの女たちはいったいどこにいってしまったのか。はて面妖なこ
とである。ぼくの頭のなかは、一切れのタクアンのシッポと、だれかからもらった
ちぎられた手紙の切れ端しかのこっていず、惨憺たるありさまである。いまさ
ら、逃げた女たちを呼び戻すこともかなわず、さていかような手立てを施してい
いかわからない。とりあえず猫でも飼っておこう、と思案したが、ペットショツプま
でいくのが大儀である。そのへんをうろちょろする野良猫でもかまわぬ、といえ
どこんな時に限って猫はみあたらないのである。そこはかとなくわが茅屋を見
渡せば、なにやら訝しき気配。いゃさゴキブリ、ひさしぶり。なんせ彼らは地球
の先住のかたがた、あだやおろそかにできません。ちょいとつまんで、ぼくの頭
の中へ、これでひねもす無聊をなぐさめえる。ガサゴソガサゴソ