ふらふらの記 1
ぼくの故郷徳島は、大阪の文化圏である。県内で生活しているとわからない
が県外から眺めるとよくわかる。特に食事の味は大阪そのもので、つくずく大
阪の影響を感じてしまう。ぼくのなかには大阪なるものが確かにあります。ずる
さも、いいかげんさも、計算だかさも大阪そのもの、ぼくそのものです。
いちじ仕事の関係で大阪の東住吉区に住んでいたことがある。当時ぼくは独
身で食事は全て外食だった。複数の食堂を利用していたが、いずれの食堂も
美味しく満足していました。
おはずかしい話ですが、ぼくも男ですので遊郭にも時々いきました。阿倍野に
有名な〇田遊郭があります。そこにおなじみの娘がいて月に2,3回通っていま
した。
娘は源氏名でしょうが、みどりと名乗っていました。背が低く少し小太りの娘
で、明るく笑い上戸の娘でした。ぼくはなじみになってからは、いくときはいつも
寿司折りをおみあげにもっていつてやりましたが、それを食べるとき「うまかね
ー」と言うのを聞いて九州なんだときずきましたが、それにはふれませんでし
た。
ある日、いつものように寿司を買って行ったのですが、あいにく先客が付いて
いた。しかたがないので近くの公園で本を読もうとぶらぶら歩いていると、前方
を犬を連れた中年男が散歩をしている。ありふれた光景にぼくはべっだん気に
もとめずみどりの事を思っていた。すると突然、犬が止まり、四肢を踏ん張る景
色がぼくの目に入った。ぼくは「あれれ」の心中で、それでも歩をすすめたが、
とうとう犬はおのれの分身をひりだしてしまった。その時傍らの男のした行動が
忘れられぬ。男の左手に握られた手提げ袋から手早く新聞紙を取り出し、道路
の落し物をわしずかみにして、手提げにおさめ風と共にさりぬ。
男のためらいのない、しなやかな立ち居振る舞いは、さながら日本舞踊の名
人の舞を見たような思いに駆られ、ぼくはただ呆然とたたずむのみでした。