独り言  6月24日 | はなのブログ

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           ぼくの想い出にのこる本  17

     ぼくがはじめて詩集を買ったのは中原中也だった。なぜその本をえらんだ

   か、どこで買ったかすら記憶にない。そのころぼくは、ひどい劣等感にさいなま

   れ、自己嫌悪と、いきることのえの失望から、鬱々とした日々を過ごしていたの

   であるが、無意識が藁をもつかむがごとく、中也を選んだのかもしれぬ。

     まず中也を読んで感じるのは、その強烈なニヒリズムである。くわえて薬味と

   しての、ものがなしさ、辛辣な皮肉、そこはかとないユモアー、叙情、さらに美的

   な表現があやなして創作されているのは疑いない。中也は黙読よりも音読がよ

   りいい。ぜひおためしをあれ。

    中也こそただひとりの友だった。ポケットのなかにはいつも中也がいた。ぼく

   のなかにあるだろう琴線に中也のニヒリズムがふれ、音楽を奏でたのだ。ぼく

   のうちなる巣食う闇が中也に反応した。そのときぼくは生きれると思った。ぼく

   はまだ青春まっただなかであった。

    あの中也詩集はいったいどこにいったのであろうか。おそらくはぼくの茅屋の

   乱雑に積まれたあまたの本たちのなかで埃にまみれ、人知れず眠っているに 

   ちがいないのであるが、はたして再びあえることは可能であろうか。ぼくは思

   う。会いたい気持ちと、あわずにいようという気持ちが、相半ばするのだ。ちょう

   ど昔の恋人とあうことをためらう心に似て、逡巡してしまうのだ。過去の美しい

   記憶を傷つけたくない。いやいやもっとおおきな感動をあたえてくれるかもしれ

   ない。ぼくは判断をつけぬまま今日に至ってしまったのである。