ぼくの想い出の本 13
向田邦子さんは、ぼくにとって特別の存在だ。
彼女は1981年昭和56年8月22日台湾で飛行機事故で亡くなった。その何
日かまえに阿波踊りを見物に徳島へこられたことを徳島新聞で知った。
ホームドラマは、小津安二郎が嚆矢ではないかと思うが、なんでもない日常
が観賞に耐えうる物語として人々に感動をあたえる芸術として確立したのに、
向田邦子が寄与したものは大きい。
想い出トランプ、隣の女、眠る盃、夜中の薔薇など、男が見落とすようなこと
を、やすやすと描いてみせてくれる、そのお手並みに驚かされると同時に感心
する。
ぼくは、文章の練習に彼女のかわうそを書き写した。いわば文章の師でもあ
るのだが、このことをあんまりおおきな声でいうのは、彼女に迷惑だろう。
また、彼女の恋をめぐるさまざまな噂が、より向田邦子を神秘的にしているの
だ。やれ写真家だ、やれ映画評論家だ、不倫だ、と。
山口瞳は向田を高く評価していた。山口の本、木槿の花にこういう文章があ
る。「あなたは、文壇の原節子ですね」と山口がいうと、「あら、わたし(男)いる
のよ」と向田が答えている。そして彼女の作品、父の詫び状のなかに書いてい
る、と告白している。山口瞳はどの章に書いてあるか聞いたのだろうが、彼の
サービス心からかわざと書いてない。こいうところが粋なのだ。
向田ファンは必死になって父の詫び状を読むにちがjない。もちろんぼくもさが
してみる。だがぼくにはわかっている。向田さんは頭のいい人だから、簡単に
見つかるようには書いていないとおもう。
最後に、いぜんぼくが書いた不倫の女は向田邦子がモデルです。向田邦子
には不倫がよくにあう。