便所考 VOL6
こんなこともあった。
ぼくは元来、組織的なるものになじまぬ性質で会社勤めは無理なのではと、
しかし働かざるもの喰うべからずと思い、自営をいとなむか、はたまた少数の
人員が働く職場がいいと、たまたま知り合いが司法書士事務所を紹介くれたの
である。要するに代書屋である。
勤めてみて思った。小人数の欠点がある。来る日も来る日もおなじ部屋で毎
日顔をあわせていると飽きるのである。あいての性格や考え方がわかってしま
うと、もうつまらない、バカとおもわないまでも、あいて(つまりボス)の俗物性に
へきへきとし、顔をみるのも嫌だつた。ましてやものを喰ってるところを見ると鳥
肌がたち、おぞましさに汚いものをみているような感慨におそわれたものだ。お
たがいさまはわかっていても、それとこれとは別、毎日まいにち、いつ辞めよう
かを考えながら勤めていた。
その事務所は、二部屋あつてぼくらの事務する部屋と隣の客室とからなる。ト
イレは客室のほうにある。
ある日、ぼくが仕事をしていると、客室のドアのあくおとと足音がした。ぼくは
気にせず仕事をづづけていると、そこへお客さんがきたもようで、ぼくが、ハイと
へんじをしてとなりの部屋にいくと、ふたりの男がいたのである。とりあえず座っ
てもらい要件をきけば、会社の設立とのこと、詳しいはなしを聞いているとき、
ひとりの男がトイレにたちドアをあけた。あっ、その男がこえをあげた。男の目
に汚い尻がうった。ボスがドアをロックをするのをわすれて用をたしていたの
だ。「すいません」と、その男は尻にあやまった。そのごの経過はつまらないの
で省略させてもらう。ちなみにさきほどの男ふたりは二度と事務所に現れなか
った。