ぼくの想い出にのこる本 5
推理小説は謎解きですので、どうしても人間の描写がおろそかになりがちです
がハードボイルドは謎解きよりも人間の描写に重点がおかれます。ハメットのサ
ム・サペード、チヤンドラーのごぞんじフィリップ・マーロウ、マクドナルドのリュウ・
アーチャーなど、魅力的な探偵がすてきなセリフをしゃべるのです。村上春樹も
彼らの影響をうけています。
江藤淳は保守派の論客ですが、夏目漱石の研究など優れたものです。江藤に
シンパシーは感じませんでしたが、ぼくのおもいこみを修正するおおきな指針でし
た。
阿佐田哲也・色川武大は大衆小説と純文学のどちらもすぐれた作品です。
田中小実昌はすごい作家です。彼の影響を受けている作家は沢山います。色
川氏同様もっとよまれていい作家です。
ドストエフスキーは奇跡です。世界文学のなかでも図抜けた存在です。一作い
っさくが信じられない濃密で異常な世界です。作品のなかのどんなささいな端役
さえ存在感があるのですが、それはトルストイもおなじです。ロシア文学の特徴
なのでしょうか。
どの作品もすばらしいのですが、あえて一つあげよといわれればやはり未完成
ですがカラマゾフの兄弟です。この作品は神はそんざいするか否かを問うた根源
的なもんだいをかかげたさくひんなのです。プルーストの失われた時を求めて、
ジョイスのユリシーズ、トーマス・マンの魔の山と、カラマゾフは人類が所有する最
高の文学作品だと、ぼくはおもっています。