With 2001.1月号
自分の気持ちに正直に生きたい。映画を観て強く思いました。(鶴田真由)
鶴田真由(以下鶴):映画はたくさん観ていますが、監督の『キャラバン』は、久しぶりに心の奥底に響く映画でした。
エリック(以下エ):それは、とてもうれしいですね。
鶴:私は映画でも本でもそうですが、何かメッセージが感じられないと興味が持てないんです。今回の監督の作品には、ものものすごく強いメッセージを感じまして「これはなんとしても監督にお会いしたい」と。
エ:どんなメッセージを感じましたか?
鶴:「自分の気持ちに正直に生きる」ことの素晴らしさというのでしょうか。晴れの日は壮大で美しいけれど、一転して嵐になると、容赦なく人の命をうばう厳しいヒマラヤの大自然の中を、ヤクを引き連れ、ひたすら歩いて塩を運ぶキャラバン隊。それを止めれば、塩を食糧の麦に換えることが出来ないので、村の人は飢えてしまう。そんなふうに常に生死が隣り合わせの環境にある人々の、自然の摂理に従って一生懸命生きている姿が、とても美しく見えたんです。なにより、登場人物たちの感情のやりとりが、とてもリアルに心に響いてきました。
たとえば長い間離れて暮らしていた若い僧侶ノルブが、母との再会を喜び額を寄せ合うシーンは、まるで子供のように純粋な笑顔だったし、自分の息子の事故死を、そのときそばにいた人間のせいにして悲しみをまぎらわそうとする長老ティンレの頑固な態度からは、彼のやり場のない気持ちが伝わってきました。いったい、どんな方が撮られたのか、どうしても知りたくて。
エ:それで、こういうステキな対談ができることになったんですね(笑)。この映画の撮影中は正直言って、不安の連続でした。ネパールの標高5000メートルの山岳地帯での撮影は、天候にも左右されやすく、撮影地までは徒歩で向かわなければならなかったりと、大変なことだらけ。それに、出演者は実際に現地で生活する人々のみで、ブラッド・ピットのような有名俳優も登場していない(笑)。スタッフ全員が、自分たちがやっていることがどこに行き着くのか、どんな作品になるのかわからないという不安で一杯でした。でも、こうして皆さんに観ていただけて、真由さんのような「メッセージが伝わりました」という感想を聞かせていただけると、よかったなと思います。
ありのままでいることの大切さを、この映画で伝えたいんです。(エリック)
本来の人間の姿を教えてくれる映画
鶴:『キャラバン』を観て、ひとつ疑問に思っていることがあるんです。
エ:というのは?
鶴:西洋の監督が撮った映画のようには思えなかったんです。ここまでリアルに、異文化を表現できるのはどうしてかなと。
エ:それは、私自身が、20年以上チベットで生活していて、”東洋”にいる期間が長いせいかもしれないですね。
鶴:彼らと生活を共にしてきて、「教わったこと」ってなんですか?
エ:そうですね・・・・・「人間というのは、ありのままが一番美しい」ということでしょうか。時代がここまで進歩したことは、決してよいことばかりではありません。
われわれのように、自然とのつきあい方があまりうまくない、文明に慣れた人々は、お店に行けば食べ物は簡単に手に入り、長距離の移動も車でできたり、物質的には彼らより恵まれているかもしれません。けれど、精神的な面を見てみると、”文明人”の世界には、恨み、憎しみ、もめごとなどが複雑に入り組んでいる。そして、戦争が絶え間なく、他を受け入れる勇気がないんです。そうしてみると、「本当の”文明人”とはいったいどちらなのか」と、あらためて考えてしまいます。
鶴:大自然と調和して生活する姿というのは、「本来の人間の姿」であり、「当然そうであるべき姿」だと、私は思うんですね。”文明人”というのは、たくさんの情報やモノに囲まれて、本来の自分を忘れてしまっているような気がします。きっと、そういう自分を見失いがちな”文明人”たちに、監督の映画は”自然に身をゆだねることの大切さ”を伝えてくれるんでしょうね。
モノ作りに対する姿勢には、共通点が
鶴:『キャラバン』は、観客としてと同時に女優としてもとても興味深い作品でした。過酷な自然環境での撮影は、きっとスタッフみんなが、体力的に厳しく、緊張感が高まる仕事だったと思います。でも、そういう状況のなかで深いつながりが生まれ、全員が全力でぶつかって生まれた映画だからこそ、素晴らしい作品ができたんだと思います。全力で向かう人間から生まれるモノは、ときに創作する楽しさだと思っていて。
エ:僕もまったく同じように感じていますよ。女優と監督、立場は違いますが、”モノ作り”に対する思いには、共通点が多いみたいですね(笑)。
僕が映画を通じて伝えたいのは、「人生には選択肢があるよ」と言うことなんです。人間どうし憎しみあって生きることもありますが、そうじゃない生き方もある。思うようにいかないときに、隣の人に罪をなすりつけるのは、あまりにも安易なやり方です。ひとりひとり朝起きたときに、今日はチョット他の人のことを思いやろうと意識するだけで、世の中って、随分よくなるはずなんです。
鶴:そうですよね。今日はこんなふうに監督とお話しできて、本当によかった。私も積極的にありのままの自分を映画や写真、本にして世の中にだしていきたいと思っているので、監督の作品やお話からは、たくさんの勇気をいただきました。
映画を観て何を感じるかというのは、人によって違うと思うんですね。お話を通して、私が監督の作品から感じたのは「自分を飾らないで生きることの美しさ」だったのだと思います。
きっと、『キャラバン』は、誰もが何かを”感じられる”映画。日本でも、できるだけ多くの人が観て、何かを感じ取ってもらえるといいですよね。私にとっては、かなりオススメな映画なんですけど(笑)。
エ:どうもありがとう(笑)。人生にステキな出来事を起こすことは、ちょっとしたリスクが必要なこともある。映画の制作はとても大変だったけれど、それによって来日できて、真由さんにも会えたことですし、本当によかった。近い将来、今度は是非一緒に映画を作りましょう。
鶴:ぜひ、近いうちに!