春合宿 -1日目(前夜) | 東京医科歯科大学スキー部

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書き始めたら思ったよりも手こずってしまい、3日経ちました。すみません。

 

 

前夜(2/25) 

 

 

ハレの日の為に伸ばした前髪。飲み会が嫌いだった彼女には居場所が無い。401号室に作った秘密の隠れ家。ストロングゼロの空き缶で建設したサグラダファミリア。

 

僕には、大切な親友と、後輩がいました。

 

今日のオフを一緒に過ごした三人のうち、そのふたりについて話そうと思います。

 

僕のひとつ下の代は、三人しか同期がいません。あみろく、ゆーみ、Eです。数が少ないけれど仲は良さそうだったので、自分は出しゃばらないように気を付けながら、少し遠くから三人の様子を眺めていました。

 

しばらくして、あみろくとゆーみが付き合い始めました。

 

Eの同期は二人、そしてその二人は恋人同士という構成がなんとも不憫に思えて、時々彼女を飲みに連れていきました。

 

飲んでいるとき、たくさんの会話をしたはずなのです。しかし、その内容はひとつも覚えていません。

 

覚えているのは、巨大な緑茶ハイを飲み干し、成人式の為に伸ばした前髪をなおすEのしぐさだけです。

その前髪は、どのように乱れてもすぐにその位置に戻るようでした。

 

人嫌いなのに、寂しい。楽しいのに、空しい。その矛盾のなかで、理解されるのを諦めざるを得なかった者はみな乙女です。

 

乙女は女だけのものではありません。男だって乙女です。

 

それにしても彼女は乙女、という言葉がよく似合いました。

 

ある日、飲もう、とEからLINEが入っていたので、上野で飲むことにしました。

 

待ち合わせは、昼にするか夜にするか迷って、夕方にしました。

 

いつものように巨大な緑茶ハイの十数杯目を飲み干そうとしていると、朝が来たので居酒屋を追い出されました。

 

行き場を失った僕たちは、ふらふらと徘徊したのち、気付けば上野公園でストロングゼロを飲んでいました。

 

六月中旬の間抜けな朝日が、どうしても憎らしくて、逃げたくて、不忍池に飛び込み、十数メートル泳いでから岸に上がりました。びしょびしょの靴下を脱いでいると、Eが急に池に飛び込みました。

 

ざぶざぶと泳いでから、藻やヘドロを絡ませながら岸に上がって、へへへへ、と笑った彼女をみて、ともだちをみつけた、と思う。

 

寮に帰るとさっそく、Eがどれだけ変人で、面白いやつなのか、という話を親友のNにしました。

 

Nは美しい顔をしていて、それでいて温和な性格です。後輩からの信頼も厚く、僕のようなどうしようもない人間からの飲みの誘いも、Nさんが居るなら、と来てくれる後輩だっているほどです。

男からも女からも好かれ、それでいてそのこと自体にはあまり興味が無い素振りでした。

 

N、E、僕の三人で飲み明かした夜は、数え切れません。

 

三人で飲むときの3次会の場所は、きまってNが住む401号室です。

 

Nは酒の空き缶を机の上に積み上げており、尋常でない量の空き缶でできたそのタワーを、僕はバベルやサグラダファミリアなどと呼びました。

 

Nが二棟目のバベルを建設し、Eが業務用の巨大な焼酎ボトルを空にし、僕が百何本目かのストロングゼロを空けたころ、もう、七月も八月も終わっていました。

 

その日は、他の同期たちも交えてみんなで飲んでいました。

夜が更け、酔いも回り、みんなの口数が減ってきたころです。

 

だれか面白い話のひとつでも無いのか、と誰かが言うとNが、別におもしろい話ではないのだけど、と口を開いて、

 

そういえばこいつと付き合ったわ、

 

とEを指差しながらつぶやきました。

 

一瞬、何を言っているのか理解が出来ませんでした。

 

一度、市川駅の駐輪場に歩いているとき、Nと話したことを思い出します。

 

「お前はいつになったら彼女を作るんだ?後輩のEなんかは、お前の好きそうなタイプだろう。Eだって、お前のこと、完全にナシって訳ではない雰囲気だぞ。実際のところ、どうなんだ?」

 

と言うと、

 

Nはすこし黙ってから、

 

んー、全く無いな、

 

と言いました。

 

Nの言葉を聞いたとき、真っ先に思い浮かんだのはこの記憶です。

 

なぜそんな大嘘を、と思いましたが、今は彼の気持ちが理解できます。

 

先輩、同期、後輩、ともだち。今までの部員同士での関係性を壊したくないがために、そこに恋、という彼とEだけが共有する秘密を混ぜ込みたくなかったのだと思います。

 

誰よりもスキー部を愛する彼らしい嘘です。

 

しかし、今までふたりの間に押し留められていた秘密は、出口をみつけ、噴き出します。

 

次の日にはスキー部員全員がふたりの関係を知っていて、1週間も経てばふたりの新しい関係性に違和感を感じる者も居なくなりました。

 

 

気付けば、僕はEを飲みに連れて行かなくなっていました。

 

部活で顔を合わせても二、三、言葉を交わす程度に済ませました。

 

余計な気遣いだった、と今となっては思います。

 

僕は、Eのようになりたかったのかもしれません。それか、いっそNのようになりたかった。そして、Eにも、Nにもなれないことが、僕の輪郭でした。限界でした。あるいは、孤独でした。

 

そんなふうに半年弱を過ごし、2/25になりました。

 

きょうは春合宿に前入りして6日目で、ちょうどN、僕、Eのオフが重なっていました。

 

同期のOも合わせてオフをとるというので、僕はOとどこかへ出かけて、NとEには二人で過ごす時間を作ってあげようと思いました。

ところがNにそれを打診したところ拒否されたので、結局僕たちは四人で遊ぶことになりました。

 

一日にしたことといえば、蕎麦を食べ、エスプレッソを飲み、眠そうな犬を眺めながらケーキを食べたくらいです。

 

 

 

 

ケーキを食べながらいろいろなことを感じたので、それを今日のブログにしよう、と思い立ってこの記事を書きはじめましたが、どう頑張ってもその内容を言葉にすることが出来ませんでした。

 

 

言葉にしようとした瞬間、まず色が抜け落ちる。言葉になった時点で、香りも、輪郭も崩れ去る。

その言葉が相手に伝わったとき、そこからは一切の真実が(すべ)り落ちています。

 

感情を言葉にしたときに、事実の崩壊が、記憶の自壊が、思い出の美化となってはじまるのだと思います。

 

きょう僕が感じた様々の前で、言葉は既に役に立ちませんでした。

 

僕たちは、人間を地でいってるから、現実は、いつだって圧倒的現実です。どこからか盗んできたドラマごっこじゃなくて。

 

 

 

白馬には、やっと雪が降り始めました。春合宿中、バーンの雪はもつのかな、と心配していましが大丈夫そうです。

 

一年生や、後輩みんなが春合宿中楽しくスキーできそうで、本当に良かったです。

 

僕には、大切な親友と、後輩がいます。

 

今日の夜、みんなが白馬にやってきます。

 

明日から春合宿です。

 

 

D2(2周目) 舩山