写真は、カナダ生まれの落語家、桂三輝(かつらさんしゃいん)さん。

NHKの「ラジオビジネス英語」という英会話学習の番組で、今月は、三輝さんのインタビューが紹介されている。そのインタビューによれば、カナダでギリシア古典喜劇を研究していて、ある研究者の「ギリシア古典劇と日本の能・歌舞伎には共通点がある」との論文を読んで興味をひかれたのが、そもそもの、日本の古典芸能との出会いだった。20年ほど前に来日して、「焼き鳥屋で、落語を見て」(テレビで見たんでしょうね、たぶん)、その瞬間に、これこそ、自分がやろうとしていたことだ、自分は、これをやるために生まれてきたんだと思って、結局、桂三枝(現:六代桂文枝)に弟子入りして、落語家となったとのこと。

英会話の「教材」としての、短いインタビューなので、あえて話を簡略にしているのだろうし、どうも、エンタテナーらしく、話を盛っている気配もあるが、凄い展開だ。

以上のインタビューは、むろん、母語の英語だが、所々で流暢な日本語が混じる。この方のこと、寡聞にして存じ上げなかったが、とりあえず、YOUTUBEを覗いてみたら、達者な落語を日本語で披露していて、恐れ入った。英語で四苦八苦している身には、良い刺激だ。

 

退職後のボランティア活動をにらんで、コロナ禍のなか、NHKの「ラジオ英会話」で英会話の学習を始めて、二年目。さて、効果のほどは?

あまり心もとない。例えば、ネットフリックスで、ドラマや映画を原語で視聴しても、以前より聴きとりが上達したような感じは、残念ながら、しない。今まで聴きとれていなかった単語が、いくつか、「耳に引っかかってくる」くらい。本当のところは、まさに実際に「会話」をしてみないことには、分からないが、コロナ禍は相変わらずで、国際交流のボランティア活動は休止状態だし、せっかく暇になったのに、気軽に海外に行けるわけもなく、ま、ラジオだけに、「エアー英会話」状態…と、つまらぬギャグで、気を紛らわせるしかない。

強いて言えば、昨年度との違いを感じるのは、聴き始めのころは、番組の15分間、英語に聞き耳を立てているだけで、頭脳が疲労困憊していたのが、最近は、そんなでもなくなったことぐらいか…もっとも、英会話の再勉強を始めたのも、実用も、ともかく、ボケ防止のためという、あまり大きな声で言いたくもない期待もあったので、毎日、毎日、英語を聞いて、「アタマの筋肉」を鍛えるという意味での効果は、あるのだろう。

 

一昨年の三月に再雇用が終了し、年金生活者となって、はや二年め。昨年度と同じような日々を送っている。家事の他は、週3~4回のプール通いと、毎日の、尺八の練習と、この英会話の学習という日課。

実際には、ラジオではなく、ネットストリーミングの「聞き逃し」という再放送を聴いている。この方が、途中で止めたり、何度も聴き直したりできるので、都合がいい。昨年度は、主に三つほどの講座を曜日ごとにまとめて聞いていた。英会話学習を始めた、もう一つの(実際には、最大かな?)理由は、例の「きょうイク、きょうヨウ」すなわち「今日、行くところがある。今日、用がある。」の「きょうヨウ」のためだったので、あわせて、曜日の区切りをつけるため、曜日ごとに固めてみた。

主に聞いていたのは、月曜が「ラジオで!カムカムエヴリバディ」、火曜が「ラジオ英会話」、水曜が「高校生から始める現代英語」、木曜と金曜が「ラジオビジネス英語」。

そして、土曜日は、以上の「ラジオ英会話」「高校生から始める現代英語」「ラジオビジネス英語」の「教材」の会話部分の聞き返しと、単語の復習。日曜は「ボキャブライダー」と「エンジョイ・シンプル・イングリッシュ」という、比較的、「軽量級」のプログラム。

ケチなこともあるが、あえてテキストは買わない。文字を見て、聴きとれたつもりになっていても、実は、あやしいと思ったから。これは、実際、聴き始めてみて、すぐに、その通りだと実感した。前述のとおり、今だって、はなはだ心もとない。(恥ずかしながら、RとLの区別は、発音する方はともかく、聴きとりでは、いまだに、できていない。こういうのは、一定の年齢以上になると厳しいのかな~と、寂しい気分になる。)

 

本年度は、ネットのストリーミングの再放送が、昨年度の「一週間分まとめて一気出し、一週間ごとに入れ替え」方式から、「その日ごとに更新、一週間たつと消える」方式に変更されたので、以下のように聞き方をかえた。

月曜から金曜は、「ラジオ英会話」「ラジオビジネス英語」と、今年度始まった「ニュースで学ぶ現代英語」を毎日。

土曜は、「ラジオ英会話」「ラジオビジネス英語」の主に会話部分の聞き返しと、「ニュースで学ぶ現代英語」も合わせた、単語の復習(昨年度は、若いころの受験勉強をイメージして暗記しようとしたが、無理と悟って、確認程度)。

日曜は、「ボキャブライダー」と「エンジョイ・シンプル・イングリッシュ」。旅行に行ったりして、間が空くと、耳が「遠く」なるのを自覚したので、とにかく、毎日、英語を聞いていくことにした。

「ニュースで学ぶ現代英語」は、NHK国際放送のナマの英語ニュースが教材で、そもそも、私なんかには無理なレベルなのだが、こちらは、テキストの販売はなく、ネット上に、英文、日本語訳、解説が掲載されているので、それをながめつつ、「ナマ英語に耐える」エクササイズのつもりで聞いている。二か月ほどたってみると、当初は、15分のプログラムが終わった時点で、頭痛に見舞われていたのが、どうにか、疲れてはいても、正常なアタマのままになってきたので、何かしら、効果というのはあるものだ。

 

さて、話は戻って、今月の「ラジオビジネス英語」のゲスト、カナダの桂三輝さん。

「ラジオビジネス英語」の木・金曜日は、インタビュー企画で、番組自ら「上級者向け」としているくらいで、こちらも、ハードルは高く、先月のイタリア人のユニセフ職員のインタビューなどは、使っている単語も難しく、ハナシもカタくて、非常に疲れたが、今月は、実に楽しい。

先週は、弟子入りしてからの苦労話で、修行は想像をはるかにこえて厳しく、当時、ある程度の日本語は話せたが、敬語の類ができなくて、三枝師匠を怒らせて、「まともな日本語が話せるようになるまで、話しかけるな」と言われてしまい、兄弟子たちの日本語を真似したりして、なんとか、修行を続けていく。そして、「師匠。よろしければ、お茶をいれさせていただいて、よろしいでしょうか」と、お茶を差しあげる、兄弟子の言ったことを一週間かけてまるごと覚え、ついに、その「セリフ」を間違えずに言えて、お茶を差し上げることに成功する。兄弟子たちが、陰で、手をたたいて喜んでくれたそう。怒られることもなく、師匠と話ができた三輝さん、うれしくて仕方なく、その後、師匠にお茶を出すのは、彼の役割となり、何度も何度も、お茶くみをしたとのこと。

この話、ちゃんとオチもあって、しばらくたったある日、三枝師匠が、ある兄弟子に聞いた。

 

三枝師匠「おい、カナダでは、最近、日本茶が人気なのか?」

兄弟子「はて、私には、分かりませんが、なぜ、そんなことをお聞きに?」

三枝師匠「…あのカナダの弟子が、いち日に、四回も五回も、お茶を持ってくるんだよ….」

兄弟子「…………」

 

がんばった三輝さんもえらいが、何度も、「お茶につき合って」あげた三枝師匠の心遣いも素晴らしい。

 

修行を無事に終え、今はアメリカに拠点を置く三輝さん、当時を振り返って、こう述べる。

「師匠の部屋の床を磨いて、自分の心も磨くんだと言われて、最初、全く、その意味が分からなかったが、修行が終わるころになって、ようやく、それが分かった。もし、もっと早く分かっていれば、もっと良い弟子になれたのに……」

 

こんな「異文化交流」満載の話が、英語と日本語を交えて、ナマで聞ける、今月のインタビュー。まだ、あと三回。興味のある方、どうぞ。「NHKゴガク」と検索すれば、すぐ、見つかります。やっぱり、外国語の勉強は面白い。