ブログネタ:プチ幸せな瞬間
じつは少し前にラショウさんからメールが来ていたのだ。
パソコンで送られてきたものらしく、僕の携帯のメールを開いてみればギッシリと文章が詰まっていた。余白なく「、」と「。」が瞬間の息継ぎみたいに綴られた文面の内容が多少ヘビィで自分なりの返事を考えていたわけではあるけど、返信はしないでいた。
そうなのだ。
ラショウさんとは、去年2月以来、
下北沢の喫茶店の人形劇をやってからお互いにやりとりしていない。
あの震災以来、東京から離れ神戸の小さなお店で自分の造った作品を売っている。
僕は返信をためらっていた。
何も言わず、神戸に行ってしまった寂しさのせいではない。
だってもうすぐ…いや、
もうすでに、ラショウさんのいる神戸へ行く日付を決めていたからだ。
すごいタイミングだ。
会いたいと思ったときに、その人から知らせがきたのだ。
僕は、神戸に行く。
だから出発3日くらい前に当たり触りの丁度いい返信をした。
もちろん、僕が向かうことは、知らせていない。
話しは、その時すればいい。
新幹線なら
東京駅から新神戸へは、三時間もあれば着く。ゴールデンウイークが終わったばかりの早朝の自由席は、空(す)いていた。お店があるのは、みなと元町だ。ホテルをとった三宮からは歩ける距離だし、その辺を見てみたい。
新神戸から三宮駅へ行くため乗り換え。エスカレーターが東京と違って、左に寄って乗っていると、通行の邪魔になる。先へ行く人のために、右に寄らないといけないが、やっぱり左に寄ってしまい
「あ、すいません」となる。
逆に東京駅のエスカレーターが滞るのは、
こっちの風習のせいか、なんて思いながらも
僕を後ろから追い越す人に
「あ、すいません」と、いう。
曇り空。
三宮駅を出ると、今日泊まるホテルはこっちだよなと確認しながら、反対方向のみなと元町に向かう。
小さな中華街があるところなんかは、どこか横浜の雰囲気に似ていた。
大きな道路とその向こうにある海と、曇り空。
携帯にメモった住所をたよりに、イタチョコ雑貨「むずかしい月」を探す。
もちろん、携帯のナビなんかを使わず街に触れるのが楽しい。この「ヨク、ワカラナイ」という不安感が、周りをよく見回し、あらゆることを吸収しようとする。
「僕は知らないのだ。この街を」
目的地に着くのは目標であるが、
目的が「目的のため」だけになってしまうことが、
僕にとって貧しい。
だから、初めての街は
「当然のように迷って歩く」
そう思えば無駄な時間なんてない。
古い商店街に出会えば、
「鯉川筋」なんて通りにあたる。
この先は鯉川という河につながるのだろうか。
筋という言い方に歴史を感じさせる。やっぱり思い出すのは、西は大阪の「御堂筋」か。
そういや、横浜に「天神橋筋なん丁目」ってあったっけ。
本道から縦に入った道を筋というなら、かつては
ここが小さな漁村だったころから、つないでいるのかもしれないと、
鯉川筋という地名に歴史のおおらかさを感じる。
そんな商店街を往来する人たちを眺めながら横断歩道をわたる。
「甲南ビル203号」を目指しながら
また同じところをグルグルしてみる。
住所を見直しながら、電信柱や表札で丁目の区切りを推理する。
ロータリーを横切り、乙仲通りに入ったところに
「はきだめ」
なんてお店の看板を見つけた。
すごいネームセンスだ。店構えからもとが雀荘だったように感じるが「はきだめ」って。
もし歌舞伎町にあったら、だいぶスラム感があるが「神戸」というブランドのせいだろうか、西のギャグセンスだろうか、そんなにお下劣な感じがしないのが不思議だ。
あの道の奥にあるかもしれない。
変なカプセル自販機を見つけた。
古いビルだ。
店先にあるガシャガシャをやった。小銭を入れてハンドルを回す、
カプセルの中には金に塗られた粘土細工の小物。
手塗り看板に「むづかしい月」と書いてある。
この上にラショウさんがいるのだ。
甲南ビルは古いビルだ。いくつかの小さな店が入っている。
せまく浅い階段を上がったところで、トイレに行きたくなった。歩き疲れたのもある。
となりの店前で女性がダンボール箱を片付けしている、
一瞬、このビルの大家さんかとおもう。若くスラッとしていて白いワンピースを着ていた。こんな古いビルを使い貸店舗としてやっているのがカッコ良く見えたのだ。
うなづき挨拶をして、すぐ横の雑居の台所にある奥の共同トイレに入った。
やっぱりラショウさんと会う前に少し緊張していたのだ。
手を洗うと、店に入る決心をする。
突き当たり廊下の窓、その奥は別の店だ。
階段手前の角がむづかしい月。
よし。
「いらっしゃいませ~」
懐かしい声がした。
僕を見てカウンター奥に座っていたラショウさんの表情が止まったようにみえた。
「…どうしたの?」
当然だ。神戸に来ることを伝えていないのだから。
明るい店だ。
こっちの音楽家さんとコラボで仮面の舞踏のライブもしているらしい。告知のハガキが置いてある。
ああ、びっくりした。
お久しぶりです。
僕はきっとニヤニヤしていたに違いない。
「メールありがとうございました」
「最初、りょーさんの携帯に送ったらデータが大きすぎて帰ってきちゃった、PCからだったから」
あんなに長い文章だったけど、カットした余白はなんだろう。なんだか嬉しい。
「少し見ていいですか」
「ああ、いいよいいよ」
「忙しいところすみません」
「ゆっくりしてって」
窓際に釣られた人形たちに、
僕らが去年下北沢の喫茶店で演ったことを思い出させた。
店内はよく整理されて配置してある。
白壁に黒いカラスかなんかの大きな絵。
「無ッ茶、小洒落た店じゃないですか」
「ここも、いつ畳むわかんないからね」
たまに遠くからわざわざラショウさんを訪ねて、お客さんがここにまで来るらしい。
あ、僕もその一人か。
「さっき奥で、大家さんみたいな女の人に挨拶しました」
「ああ、それ隣りの店の人」
時間は、
すぐに戻ってしまうもの。
ラショウさんにおごってもらった缶コーヒーのお使いを、ビル出た向かいの自販機で買うと、
少しの荷物をどけて店内のカウンターに座わらせてもらった。
お互い最近の事を話した。
懐かしくも親しみのあるトーンが心地いい。
ラショウさんが何も言わないでこっちに行ってしまったこと。
「カメラマンの芝居。普段やらないこと演ってたみたいだね。」
2月に外部出演した作品だ。
(「線上のカメラマン
」 リンク←◎)
つい最近、人形劇と劇団の公演をいつも観に来てくれる二人のお客さんが
ここに訪れて僕の近況を伝えてくれていた。
神戸からPCメールをくれたキッカケかもしれない。
「りょーさん、いい流れだと思って」
僕もまた、ラショウさんと何かやりたいと伝えにきた。
震災以来、原発も含めて国も電気会社も、あまりに大きな問題ゆえに命を軽んじている。
そんな東から西の神戸へ逃れてきたのか。
「ドイツで芸術家ビザが取れたら、そっちに行くかもしれない」
「えっ!?」
「仮面の舞踏家で」
「…変なPCゲームクリエーターで、かと思いました(←失礼)」
「フフフ」
ドイツは、合理的な思考と原発のない国だ。
ラショウさんはラショウで、いつでも心の翼に任せればいい。
「その前に、りょーさんと何かやれたらね」
それから、お互いアレハコレハと色々話す。
今話されていることが、
まだ足りないコトでもあり、
すでに足りうるコトでもある、ことを
忘れナイヨウニ。
僕らが話しているとき一人の女性のお客さんが、お店に入ってきた。
ひとつひとつの作品を、
ゆっくりゆっくり、
フラフラと眺めている。
対話を少し遠慮して、缶コーヒーを少し含んだ。
静かに、女性は店を出る。
「ありがとうございますー」
こっちで、お店をやっている僕の知らないラショウさんを見たような気がした。
ひとしきりの話しが終わる。
店内を巡りながら
「小人の付いたヒモ」は家の植木に水やるガラスビンに、
あと知り合いへのお土産。
「魔犬ロデム」の手造りキーホルダーを選んだ。
「ありがとうございますー」
包んでもらうのを待ちながら
携帯アプリのために描いた
「ボコスカウォーズの原画」を眺めた。
「どーすんの」
「あんまり決めてないですけど有馬温泉行こうかなと思ってます。そのあと京都。」
「あぁ。近くにいるけどいってないなー」
お代と引き換えに茶色い紙袋を渡された。
「じゃ、また」
「またー」
甲南ビルをあとにして、
ふと、二階を見上げた。
ラショウさんの人形たちが、
僕を見送っているような気がした。
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打ち止め イタチョコ浄瑠璃
訪問、最後までありがとうございます。
神戸と京都を二泊三日の小旅行してきました。
そのときの話し。
コメントありがとうございます。遅れてしまいました。
ちゃんとお返ししますね。
また。涼
≪むづかしい月
≫
〒650-0042
兵庫県神戸市中央区海岸通4丁目3-20 甲南ビル203号
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ラショウさんと僕。
プチ幸せな瞬間。かな
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