集合場所では溌剌とした表情の参加者の皆さんが続々と集まってくる。
赤やブルーのザックを担いでやって来ます。
飛行機を利用されてホテルで前泊された遠方から参加された方も少なくなさそうでした。
ツアー登山のまさに始まりです。
日本で最も南に位置する聖岳、アプローチが長い光岳の2座登頂を目指しての登山であり、決して簡単なコースではありません。
長い縦走のスタート前は誰もが不安な気持ちを持ち合わせています。
バスはスムーズに東名高速を走り、「オクシズ」と言われる曲がりくねった静岡県の最奥部へと向かっています。
「お茶の静岡県・・・」
「ずいぶん山深い所に住んでるなァ~」
「明日も晴れるといいな~」
まとまらない考え事をあれこれしながら、流れる景色に目を奪われます。
朝、新宿を出発して午後4時頃やっと椹島ロッジへ到着です。
和室の部屋、入浴可能、食事も地理を考えると豪華なものです。
「何もせず1日バスに揺られた割には疲れたな~。」
寝る前にそんなことを思う。
2日目
余計なことを考えないようにして登山開始となる。
このコースへ参加された皆さんは全国の山々を歩かれてる方ばかりのようです。
急な登りを登っている時も話が途切れません。
こんな感じの左側が谷底の部分でも、歩行は安定しています。
南アルプスは吊り橋が多いですね。
日聖沢吊橋です。
ここで休憩してから、2度目の急登があります。
しかし気候も涼しくなっていますので、大分登り易くなってます。
呼吸が荒くならないようにスピードを調整しながら、ゆっくりと登ります。
1時間少々掛けて平らな造林小屋跡地までやって来ました。
適当な時間に小休止適地が有ります。
開始から3時間近く経っていますので、お弁当の一部や行動食を自分から進んで食べています。
やっぱりエネルギー補給しないといけませんね。
ガソリンが無くては車は動きません。
そして約1時間後の乗越で昼食タイムです。
腰を下ろして休憩ですが、聖岳が展望出来ます。カシャリ、カシャリとカメラを向けてから休憩となりました。
今日は本当に天気が良いです。
明日の山頂でも展望をお願いしますと言葉を発している人も居ました。
そこからはなだらかな尾根を辿るような小屋へのルートです。
滝見台でカシャリ。
こんな綺麗な水面でカシャリ。
そして赤石山脈の象徴の赤い石も見ることが出来ます。
この橋が見えたら小屋は近いです。
樹林の背丈も低くなってくると小屋が見えて来ます。
やった~。
小屋はひっそりと聖平の端に建てられています。
今日は寂しくテントは一張も有りませんでした。
小屋のスタッフは昨年と同じ顔ぶれです。
「お疲れ様です。」
「御厄介になります!」
みかんやパイナップルの缶詰がサービスで出迎えてくれます。
疲れた体に有り難いです。
「うわ~美味しい!」
そんな声が玄関先で聞こえてきました。
山小屋でこのサービスは小屋の気持ちが伝わって来ます。
約6時間の行動でした。
夜はさすがに冷え込み、夏用の寝袋では寒そうでしたので厚着してシュラフに潜り込みました。
3日目
朝暗いうちに食事を済ませ、ヘッドランプを点灯させて聖岳へアタックです。
風対策で雨具を着用して、いざ山頂へ・・・
往復5時間は掛りますので、しっかりとした行動食もちゃんとザックに仕舞ってあります。
5時9分出発!
この時間帯は少々辛いです。
眠いこと、完全に体が目覚めていないこと、ヘッドランプの灯りでは足元が見えにくいことなどなどです。毎回、気分はひたすら登るのみです。
うっすらと明るくなってきた頃・・・
「無灯火歩行可能な方はヘッドランプの電池節約しましょう。」
そして更に登っている・・・
見えて来ました。
日本の富士山です。
やっぱり富士山は日本の象徴ですね!
ヤセ尾根を通過し、いよいよ本峰へ取りつきます。
小石や砂利で歩きにくい道ですが、歩幅を小さくしてすこしずつ登るしかありません。
ジグザグの道を30~40分も登ると山頂です。
360度の展望でした。
遠くに槍ヶ岳も見えていました。
「あれが槍で・・・あれが恵那山で・・・」
そんなやり取りと記念撮影で忙しい時間です。
少々空腹感がありました。
一段落した頃、ばくばくと菓子パンを喰らいつきました。
本当に良かった!
展望が出来て良かった!
雨にやられなくて良かった!
そんな思いでいっぱいでした。
下山時目の前の山脈を指して・・・
「今日は茶臼小屋へあの山の稜線を辿って4時間です。頑張りましょう!」
「ウォ~ス!」
知らない人同士が参加したツアー登山でも2日目となれば団結心で結ばれます。
秋の花、マツムシソウは昨年と同じように今年も咲いてました。
昼食は小屋で温かいカレーを食べてエネルギー補給完了です。
上河内岳での登りでは紅葉が進み、山全体が色づいているようでした。
上河内岳の肩付近のミヤマダイコンソウの赤
チングルマも冬の準備が整ったようでした。
肩から上河内岳への登りです。
ここは登りませんでした。
周辺はガスが掛り始め展望もない状態でしたが、聖岳の山頂部が雲に浮いたような景色が一瞬現れました。
そこからはなだらかな尾根を下って茶臼小屋へ向かいます。
実を付けたシラタマノキ
小屋が見えたその時です。
ポツポツト雨が降って来ました。
危うくゼーフです。
本日は休憩取を混ぜて、11時間半の行動でした。
夕食後、皆さんに食堂へ集まって頂き、気象予報の伝達と翌日の光岳中止の連絡をしました。
理由・・・
小屋で掲出されていた明日の天気予報は以下の通りでした。
1 朝、昼、夕がたともに気温6度・聖岳山頂部では降雪も考えられる
2 風速10m前後の風予想
3 光岳往復の過去のデータは往復約13時間
4 朝から終日・・・雨
山形県から来られた横@さん他、遠方からも沢山の方がいらっしゃってました。
仕方ありません。
一番の危険は低体温症です。
気温の低い時、雨と風の中で13時間もの活動は危険との判断です。
説明が終わった時、食堂は静まり返ってしましました。
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小屋内で、過去の事案が思い出されます。
雨と風の中、南アルプス縦走で、小屋へ到着して荷物整理等を終わらせ、1時間後の晩飯の時の出来事でした。
私の目の前に座ったお客様は、夕食の箸を持つ手がガタガタと震えていたことがありました。低体温症ですね。
温かいみそ汁などの夕食を食べ終わる頃は震えは治まっていました。
その時は・・もう1時間雨歩行の時間が長かったら、いったいどんなことになっていたのだろうかということが思い出されました。
最近ではは「着干し」などと言う言葉もあるようで、着たまま干すことをいうものです。
汗や湿気等で濡れた背中や腰回りを上着など着た状態で暫く居ると、いつのまにか快適な状態になります。
山用品店で販売されている、速乾性の下着であればこそできる仕業です。
また秋口であればメリノウールなどを織り込んだ保温性のある下着もあります。
今回の様な秋山での雨登山では、保温も考慮する必要が有りますので、大変有効と思います。
低体温症・・・気を付けなければいけないですね。
3日目
若干の曇天の中、尾根を下って半分ほど下山したところ、雨が降って来まして雨具着用しました。
「もう少しだったのに!」
雨具着用のまま、ヤレヤレ峠で記念撮影、畑薙大吊り橋を渡って無事下山してきました。
参加された皆様、そしてスタッフの皆様、5日間お世話になりました。
お疲れ様でした~。