「相席でも宜しいでしょうか?」
何気なく入った蕎麦屋でそう言われた
お客はまばらで全然混んでいないのに
これから混み始める時間だからとの事だが
本当に混み始めてからそうすれば良いのに
田中は本当は嫌だったけれども
その場はいい人の振りをしてそれを受け入れた
案内された席の向かい側に座っていたのは
同い年くらいの
ショートヘアーの地味な女性で
なんかお互いに気まずくて
その日は蕎麦の味もよくわからなかった
だが、その日を境に
その人を街で見かける様になった
どうやら自分と同じでこの辺りで働いていて
お昼は外食で済ませている様だった
田中はいつのまにか
そのたいして美味しくない
蕎麦屋に通いはじめた
初めて彼女の家へ行った日
和風の部屋の雰囲気に全然似合わない
小さなシャンデリアの付いた天井を見上げて
田中はこの変な人のことをもっと知りたくなった
それは子育てを終えて
夫婦ふたり暮らしになった今でも変わらない
今、家の天井には
その時よりはほんの少し豪華なシャンデリアが
多少の後悔と共にぶら下がっている

