まるで徒競走の様に駆け抜けていった人だった
あの人との出会いは電車の中だった
その日たまたま腕時計の電池が切れていて
仕方無く父の形見の時計をしていた
今時誰もしていない手巻きの時計
「 あの ちょっとその時計
見せてもらっていいですか?」
自分より随分と若く
美しい顔の青年に話しかけられて
私はびっくりした
七つも歳下の夫
こんなにすぐに私を置いて行くとは
思ってもみなかった
一緒にいた時間が短ければ短いほど
余計に辛いのだと初めてわかった
時には
一緒にいるのが嫌になるくらい
変な部分をもっと見せて欲しかった
でも もうそれは叶わない
高価でも無くなんの変哲も無い
竜頭のちょっと欠けたオリエントスターの
地味な銀色の時計
彼が大好きだった時計
吊り革につかまって
電車に揺られていると
彼の記憶は
まるで嘘だったかのように
流れる景色の中に消えていった

