その男に初めて会ったのは
もう数年前の事だった
何やら騒々しい音が遠くから聞こえて来て
それが段々と近づいて来る
やがて自分より幾分歳上に見える
無精髭の男がベンチの隣に座って
パンの耳をちぎってそこら辺に撒き始めた
騒々しく聞こえていたのはラジオの音で
「東証株価指数今日の値動きは、、、」
ニュースの音声が流れていた
ラジオの音で遠くからカラスが寄って来た
この公園の序列では一番上なのか
鳩や雀などを差し置いて
パンの耳をつついている
やがてカラスが満足すると
他の小鳥達の番になった
その日以来
時折、公園でその男を見かける様になった
付近を歩いていると
ラジオの音が聞こて来る
それにつられて、つい
男がエサを撒く姿を見たくなって
まるでカラスの様に公園の中に入っていった
時々、野良猫の姿も見かけた
男のお客は鳥達だけでは無かった
今朝は雨が降っている
公園の付近を通りかかった時に
ラジオの音が聞こえたので
私はいつもの様に公園を通り抜ける
ルートを選んだ
だが今日は男の姿が見当たらない
雨の降る中
ベンチの上のラジオだけが喋り続けていて
鳥達もいない
私は雨の中に立ち尽くして
そう言えば
一度も男の声を聞いたことがない事に気づき
頭の中で
低く落ち着いた声を想像した

