なんの変哲もない薄曇りの日だった
涼太が隣町との境にある小さな橋の上から
川の流れを眺めていると
誰の仕業か
黒いフレームの自転車が
片方のハンドルだけ水面に突き出して
川底に沈んでいた
冬の寒空の下
涼太はしばらくそこにじっとして
それを眺めていたが
あたりに全く人影が無いのを確認した後
何かに急かされる様に
スニーカーと靴下
ジャージのズボンをそこに脱いで
裸足で冷たい川の中に入って行った
それがクロとの出会いだった
ー ただ黒いと言うだけでその自転車に
クロと言う名前をつけて呼ぶ事にした ー
川底の自転車は
土手に引きあげて見ると
車輪もフレームも曲がっておらず
チェーンが外れている以外は
特に目立った不具合も無く
ブレーキワイヤーさえ
少しキツめに調整すれば
充分使える代物だった
涼太はクロにこれまた
町のゴミ捨て場から拾ってきた
ママチャリの前カゴを取りつけて
使い始めた
涼太の母は涼太がどこかで何かを拾ってきても
もう最近は驚かなくなっている
この前も町の大型ゴミのゴミ捨て場から
壊れたテレビを拾ってきて
部屋に持ち込んで
ヒューズ交換と回路のハンダ付けに
隣の部屋のテレビのアンテナから分配器で
電波を引っ張ってきて映る様にして
夜中にこっそり大人向けの
番組をみているのも知っていた
「 行ってきます 」
涼太は母親にそう言って前カゴに
友達に借りているコミック本をほうりこんで
颯爽とクロに飛び乗った

