その男は自分の事を死神だと名乗った



吉井が抱いている死神のイメージとは


かけ離れて


そいつは高級な生地の仕立ての良い


三揃いのスーツを着て


シルクハットまでかぶっていた



ただ男の陰鬱な表情が


もしかしたらそうなのかも知れないと


思わせている



列車の中のレトロな作りのビュッフェで


その男と向き合っている



目の前のグラスには


血のようなどす黒い


飲みものが注がれているが


手をつける気にはならない



やがて列車は渓谷にさしかかり


窓から幾つかの島が浮かぶ


巨大な湖が見えてきた


湖面が夕陽を反射して輝いている


いつか西洋の絵画で見た様な絶景だ



吉井は目の前の男そっちのけで


その景色に見入った



時間を知らせるブザーの音で目が醒めた



床ずれを防ぐために一定時間で


体の向きを変える必要があった



夢に色がついているかどうかと言う


議論が馬鹿らしくなるほど


夢で見た景色はくっきりと美しかった



吉井は手慣れた様子で


体の向きを変えてもらいながら



シルクハットの男を怖がるというより


むしろ懐かしんだ