その夜の空襲での


川辺の町の被害は甚大だった




子どもらの学校が野戦病院さながらに


大勢の怪我人で溢れていた




教室だけでは足りず


体育館の運動具を片付けて


出来たスペースに


その男は寝かされて


ゆっくりと深い息をしていた



意識は無い



だが誰も彼に構う余裕が無く


その側を通りながら時々息があるかどうか


確かめるのが関の山だった








四角い顔の無精髭の男が


好奇心と多少の恐怖を浮かべた目で


こちらを見ていた


彼は仕事をしていた手を止めて


何かを話しかけて来た




でも言葉が全くわからない




私はその場所から離れようと


自転車につかまって立ち上がった




だがポケットのハガキの事を思い出し


それを彼に見せるのがいいと思った



目の前の木とそっくりの絵が描かれている


そのハガキを、、、





直感の通り彼は親切な男だった




彼は事情はわからないがここにいて良いと


身振り手振りで教えてくれた




男の顔立ちを見て


ここがあの東洋人の国だと


直ぐにわかった




ひと夏の間一緒に過ごした彼は


彼の父親が亡くなってすぐに自分の国に


連れ戻された




ある日突然


彼は荷物を纏めて部屋を出ていった


とても大事にしていた自転車を私に預けて






冷たい向かい風を受けながら


故郷によく似た川辺を


私は無我夢中で走った




人生で一番幸せな夏をくれた彼に


最期にどうしても会いたかった




どんどんスピードがあがって行った


そして遂に土手で派手につまずいて転び


川に突っ込んでしまった





小さな橋の上から


逆光でもわかる


黒い瞳の優しげな表情の少年が


こちらを見ていた





私は彼によく見える様に


片手をあげたまま


なんの変哲もない薄曇りの空を見上げた