薄曇りの寒い日だった
吉崎幸太が帰省がてら
数年ぶりに墓参りに行った時
昨日からの雪で
地区のそれぞれのお墓の上に雪が積もっていて
この辺りの集落では多い苗字だったから
隣の家のお墓と見分けがつかなかった
それで、ポケットから出した手で雪をはらうと
見慣れた石のたたずまいが出て来て
ようやくそれが自分の家のお墓だと
確信が持てたのだった
すると目の前に
赤と白のかわいらしいオブジェ
一瞬、なんだか分からずに
じっとそれを見つめると
小さなりんご飴が置いてあって
その上に雪が積もっている
誰がこんなものをお供えしたのか
考える間もなく
幸太は父との会話を思い出した
父が亡くなる前は
もう体力が限界で誤嚥が酷くて
食事のたびにむせかえる父が
気の毒でならなかった
いよいよ何も食べられなくなった時に
最後に食べたいものは何かと聞いた時
父の答えは意外なものだった
「りんご飴」
それが一瞬、食べ物かどうかも分からないほど
頭が混乱したのを覚えている
しかし
この近くでお祭りでもやっているのか
いったい誰がどこで手に入れて来たのか
幸太は寒さでかじかんだ手で
おそるおそるそれを手に持った
その瞬間
ほんの一瞬だが
白い襟巻きをした
赤い着物の
美しい女性の姿が脳裏に浮かんだ
それで幸太は
ほんのちょっとだけ合点がいった気がして
あの堅物の父が母に
死ぬまで隠し通したであろう秘密を
想像するのだった

