第12週「あなたのおかげで」

■語り直しの、みーちゃんの挫折

地場採苗の研究をしている高校時代の未知=蒔田彩珠の気持ちを想像するに、

わたしがこの島の漁業に革命を起こすんだ!
わたしがこの島の漁業を救うんだ! 救世主になるんだ!


それぐらいの気持ちでいたのではないでしょうか。
それでいいんです。若いんですから。むしろ、若いうちから変に大人びて、分別臭く、自分はこの程度と自分を枠にハメていたら、大した大人にはなれません。こういうのは素質、資質であって、始めに「大志」を抱いているか? 強烈で膨大なエネルギーを蔵しているか? それがない人間にいくらそれを身につけろと云っても無理な相談です。それを持てる者が世間の荒波の洗礼を受けて、鍛え抜かれ、磨き抜かれる。それが成熟です。ナガノミツルに云わせれば「お前はまだエゴイストでいい」ということです。

「お前はまだエゴイストでいい」
――※『リアル』(井上雄彦)第4巻より

彼女が生まれ育った気仙沼の離島・亀島は、未知にとってぬくぬくとしたぬるま湯でした。彼女はみんなに好かれ、愛され、ゆえに誰も「本当のこと」を彼女に告げませんでした。家族でさえもです。もし彼女が嫌われていたら、鼻つまみ者であれば、誰かが容赦なくそれを云っていたでしょう。

勘違いすんなよ。お前の高校生の自由研究なんて、誰も本気で期待なんかしてねえよ。そんなもんがプロの現場でモノになるかよ。笑かすんじゃねえよ。

「敵」は「本当のこと」を云ってくれる。宇津帆さんの云うとおりです。

「本当の事を言うのはいつも敵
――※『ザ・ファブル』(南勝久)第10巻より

彼女は幸福な環境で、真実を教える悪意に接することなく、善意に基づく気遣いに包まれて、これまでを過ごしてきました。それゆえに、祖父・龍己=藤竜也との間に波風が立ち、苛立った彼がこれまで決して発することのなかった一言を口を滑らせるまで、彼女は幸福な勘違いを続けてこれたのです。
※「たかが高校生の、自由研究です」
暗くて地味な「モネ」の魅力 《後編》~おかえりモネ
 https://ameblo.jp/tkaname/entry-12689763016.html


未知にすれば、衝撃の大ショックだったでしょう。その瞬間、彼女はこれまで自分の研究に笑顔で協力してくれた大人たちの本音を、祖父の一言で知ってしまったのですから。
「何で高校生とか子供とか言うの!?」「バカにしないでよ。本気で一緒にやってよ!」
そう云って彼女は怒ります。ブチ切れます。でもそれは、そんな怒りに身をまかせていなければ、こころが壊れてしまいそうだったからではないでしょうか。ワタシには激昂する彼女の姿に重なって、こんなふうに泣きじゃくっている、未知の姿が見えるような気がしました。

わたしはちっぽけだ。ちっぽけだったんだ……。

未知は残酷で容赦ない「現実」という壁にぶち当たり、打ちのめされたのです。
さて、こうして永浦家には、「嵐」が吹き荒れました。ですが、そのお蔭で、お互いに本心をぶちまけ、ぶつかり合うことで、この一家に潜在し、蝕みかけていた「膿」を出すことができました。「嵐」を怖れて、「膿」を溜め込んでしまう。現実にも、そんなことが沢山あるような気がしませんか?
以上、前回のおかモネ日記のほとんど語り直しですが、同じ題材で違う歌が浮かんだので、歌ってみました。

■モネと未知のライバル関係

ふたりが仲良し姉妹であることは、云うまでもありません。それでも、誰よりも身近にいる歳の近い人間同士としての競争心、ライバル意識といったものがあるようです。
ちなみにワタシは「ひとりっ子」でして、こうした兄弟姉妹間の感情の機微については、ちょっと羨ましく思いつつも、想像するしかありません。いま「だろうな」という声が、そこかしこから聴こえたような気がしましたが、幻聴でしょうか?
その点、未知はそれまで、フラフラと彷徨っている姉に対して、気持ち的優位に立っていたように思います。

独り立ちしたっぽい真似なんかして、なにをしてるのかしら。わたしなんて自分の道、決めちゃってるもんねー。

そんな優越感があったのではないでしょうか。事実、モネのほうも、しっかりした妹に対して、自分の目標のなさに引け目を、コンプレックスを抱いていたようです。
しかし、未知がこの一件で挫折を味わい、それとは対照的にモネが気象予報士として東京へ行き、台風の予測を通じて、見事に地元地域の人々を救うと、今度は逆に未知がモネに対して、劣等感を抱くようになってしまったようです。

胸中複雑な未知
――57回より
島の被害が最小限で済んだ。それも我が家の娘・孫のお蔭で! 感謝と歓喜に湧く家族のなかで、未知の胸中は複雑であることが、彼女の表情から伺えます。


あいつがいい仕事をすれば誰よりも嬉しいし、誰よりもムカツク。
これは確か『遺書』だったでしょうか? 松本人志が浜田雅功について語った言葉です。こんな関係がモネと未知の間にも、あるような気がします。まったく違う世界にいるというのに、ふたりは強烈に意識し合い、競い合っているのです。

■野心家・マリアンナ莉子との衝突!?(おかモネ日記予報)

なんかさ、永浦さんって、ちょっと重いよね。
てか、人の役に立ちたいとかって、結局、自分のためなんじゃん?


結局、自分のためなんじゃん?
――57回より

そんな微妙でひそやかな対立を姉妹で演じる一方。
「やっと、みんなの役に立てた」。そう、幸せを噛み締める様子のモネに、ミドルネームを含む名前は確かに本名、それで表に出ているのは「顔と名前を覚えてもらいたい」から。己れの野心を隠しもしない、ザ・上昇志向、神野マリアンナ莉子=今田美桜は、軽~く「イラッ」としているご様子です(笑)。

※名前は本名、そう名乗っているのは「顔と名前を覚えてもらいたいから」。
58回で自らそう口にしています。
「神野莉子」というごく普通の姓名でなく、ミドルネームを含む本名でデビューした名前戦略は大当たりだと思います。このインパクトは大です。目立つためにこの芸名なら、ちょっとイタイですが、本名ならこう名乗って大正解です。ワタシら昭和世代のオッチャンは、どうしてもおニャン子クラブのあのひとを思い出します。ご本人には誠に失礼、申し訳ないのですが、彼女にあのミドルネームがなかったら、他のあまり目立たないメンバーとともに忘れ去っていたでしょう。国生さゆりさんも街でバッタリ出会って「あッ、山本スーザン久美子!」とわざわざフルネームで呼び再会を喜ぶこともなかったはずです。


いいね! テレビのリモコンに「イイネボタン」があったら押しまくりですよ。缶ビール片手にこの表情。この一瞬の悪魔的表情をポーズにすると、なおさら凄い。若くして思わずM奴隷としてかしずきたくなる、ドS女王様の片鱗漂わせるこの風格。いまはまだ「今田美桜ちゃん」ですが、近い将来確実にワタシの中で「美桜さま」と呼ぶであろう女優さんですよ。
※女性タレントの敬称問題
コロナ下の『ザ・ファブル』
 https://ameblo.jp/tkaname/entry-12690399808.html


マンガ的、ライバルキャラ、イジワルキャラではありません。朝岡チームの気象情報会社の先輩で同僚として、彼女はいたってフレンドリーにモネに接しています。でも、こういうところも、あるんですよ。
海原雄山絶賛、「引き出し昆布の技法」のような、この微かで一瞬の、感情の表現。これがこのドラマの良さ、凄さだと思います。制作スタッフのみなさんには、自信を持っていただきたい。

モネと莉子の対立についても、いずれ筆を執ることになりそうです。そう、今後のおかモネ日記「予報」をして、今回は締めたいと思います。

今田美桜に清原果耶、ともに綺羅星のごとく芸能界に君臨する美女ですが、かたや花の東京のお天気キャスター、かたや東北から上京したばかりの田舎娘。この違いと差がよく出ており、際立っています。この辺はさすが女優というべきか、キャスティングの妙というべきか。
ただ、ひとつだけ、これは文句を云っておきたい。あのモネの東京住まい、道後温泉のような外観の銭湯を訪れ、もちろん入浴もしておきながら、サービスカットのひとつもなしか!? なにもシャワーシーンを要求はしませんよ。湯船から上、肩から上のカットでよろしいのです。今田美桜ちゃん? 事務所? 制作スタッフ? だれに、どこに文句を云ったらいいんですか? モンクの叫び。

2021.08.14 一部変更