「お父さんとお母さんどっちが好き?」
なにげなく大人が子供に聞く。
両親に愛されている子供が前提の質問だ。
どっちかを好きと言われると
もう片方はガックリするのがお決まりだろう。
そして大人達は笑い合う。
私はその質問が一番嫌いだった。
「嫌い」というより「怖かった」に近い。
「どっちも好き」と答えるよう言われていた。
「好き」って意味が分からなかった。
「お父さん」とか「お母さん」とか
好きなんていう対象だとは思わなかった。
仕事を言いつけられ
やらなければ殴られる。
それだけの存在だったから
母親の後を追ったのもハイハイしている頃までのこと。
泣く私を無視して母は出かけた。
おかげで何も求めない諦めのいい子に育った。
「家」に安心を覚えるのは誰もいない日中のみ。
夜の一人の留守番は怖かった。