WolframAlpha での計算結果は
https://ja.wolframalpha.com/input/?i=∫%5B0%2C+∞%5D+%28logx%29%2F%281%2Be%5Ex%29+dx
つまり,∫[0, ∞] (logx)/(1+eˣ) dx=-(1/2)(log2)²
それを証明するにあたって,試行錯誤した経過を記載する.
とても奥が深く,難解であることがわかった.
あらためて,人工知能のウルフラム先生の偉大さを感じたのだった.
積分範囲が x=0→∞ という広義積分であるので,複素積分を試みた.
積分経路は,Key-hole contour と呼ばれる鍵穴のような周回経路である.
f(z)=(logz)²/(1+e^z)
として,
∮f(z)dz=∫[0→∞](logx)²/(1+eˣ)dx+∫[∞→0](2πi+logx)²/(1+eˣ)dx
=-4π²(log2)-4πi∫[0, ∞] (logx)/(1+eˣ) dx=2πiRes(f,α)
になって、うまくいきそうだったが,
この積分区域では,
極が,z=±(2n-1)i と無数にあるので,その和は収束することなく,この解法ではうまくいかなかった.
そこで,極が無数にならないように,1個だけ通る積分経路で
以下のような原点を避けた長方形
C1: ε→R (z=x : ε≦x≦R)
C2:R→R+2πi (z=R+2πit : 0≦t≦1)
C3:R+2πi→2πi (z=x+2πi : R≧x≧0 )
C4: 2πi→iε (z=ix :2π≧t≧ε)
C5: iε→ε (z=εe^(it) : π/2≧t≧0 )
で f(z)=(πi-z)logx/(1+e^z)
で計算を試みた.
z=πi の特異点は「除去される特異点」になるが,log(x+2πi) という項が出現して,
∫log(x+2πi)/(1+e^x)dx も求めなくてはいけなくなって,やはりうまくいかなかった.
そこで 複素積分はあきらめて,1+eˣ=t と置換して計算を試みた.
∫logt/{(t-1)log(t-1)}dt というものがでてきて,これもうまくいかず.
今度は,被積分関数の 1/(1+eˣ) という部分に注目して,まずは,これを変形することを考えた.
1/(1+eˣ)=e⁻ˣ/(1+e⁻ˣ)
とすると,x=0→∞の範囲では、e⁻ˣ≦1 であるので,等比数列の無限和の形であらわせることに気付いた.
e⁻ˣ/(1+e⁻ˣ)
=e⁻ˣ(1-e⁻ˣ+e⁻²ˣ-e⁻³ˣ+・・・)
=e⁻ˣ-e⁻²ˣ+e⁻³ˣ-e⁻⁴ˣ+・・・
であるので,
∫[0, ∞] (logx)/(1+eˣ) dx
=∫[0, ∞]e⁻ˣ(logx) dx-∫[0, ∞]e⁻²ˣ(logx) dx+∫[0, ∞]e⁻³ˣ(logx) dx-....
なので,
∫[0, ∞]e^(-nx) (logx) dx を検討することにした.
nx=t と置換することによって
∫[0, ∞]e^(-nx) (logx) dx
=(1/n)∫[0, ∞]e^(-t) {logt-logn} dx
=(1/n)∫[0, ∞]e^(-t)(logt)dx-(1/n)(logn)∫[0, ∞]e^(-t)} dx
=(1/n)∫[0, ∞]e^(-t)(logt)dx-(1/n)(logn)・・・・①
よって
∫[0, ∞]e^(-t)(logt)dt を求めればいいことがわかった.
部分積部を試みるが,初等関数ではない積分指数関数
Ei(-x)=∫e⁻ˣ/x dx が出現して,うまくいかなかった.
そこで,
積分表示のガンマ関数に注目した.
Γ(s)=∫[0,∞]e⁻ˣ x^(s-1)dx
というものである.
x^(s-1) を s で微分すれば,x^(s-1)(logx)
となる.
よって
Γ'(s)=∫[0,∞]e⁻ˣ x^(s-1)(logx)dx
s=1 を代入すると
Γ'(1)=∫[0,∞]e⁻ˣ logx dx
になる.
したがって,ガンマ関数s=1における微分係数を求めればいいことがわかった.
解析接続されたガンマ関数を使う.
Γ(x)=lim[n→∞]nˣn!/{x(x+1)(x+2)(x+3)・・・(x+n)}
この両辺の対数をとると
logΓ(x)=lim[n→∞]{xlogn+logn+log(n-1)+log(n-2)+・・・log3+log2-logx-log(x+1)-log(x+2)-・・・-log(x+n)}
になる.
xで微分すると
Γ'(x)/Γ(x)=lim[n→∞]{logn-1/x-1/(x+1)-1/(x+2)-・・・-1/(x+n)}
ここに x=1 を代入すると
Γ'(1)/Γ(1)=lim[n→∞]{logn-1-1/2-1/3-・・・-1/(1+n)}
Γ(1)=1で
オイラーの定数 γ=lim[n→∞](1+1/2+1/3+・・・+1/n-logn)
であるので,
Γ'(1)=-γ
になる.
したがって,∫[0,∞]e⁻ˣ logx dx=-γ という結果を導くことができた.
よって①は,
∫[0, ∞]e^(-nx) (logx) dx
=(1/n)∫[0, ∞]e^(-t)(logt)dx-(1/n)(logn)
=-(γ/n)-(1/n)(logn)
=-(1/n)(γ+logn)・・・・②
よって
∫[0, ∞] (logx)/(1+eˣ) dx
=∫[0, ∞]e⁻ˣ(logx) dx-∫[0, ∞]e⁻²ˣ(logx) dx+∫[0, ∞]e⁻³ˣ(logx) dx-....
は,②をつかって
∫[0, ∞] (logx)/(1+eˣ) dx
=-γ+1/2(γ+log2)-1/3(γ+log3)+1/4(γ+log4)-1/5(γ+log5)+・・・
=-γ(1-1/2+1/3-1/4+・・・)+(1/2)log2-(1/3)log3+(1/4)log4-・・・
となる.
ここで,
log2=1-1/2+1/3-1/4+・・・
という値を使って
∫[0, ∞] (logx)/(1+eˣ) dx=-γlog2+Σ[k=1,∞](-1)^k (logk)/k ・・・③
という結果になった.
したがって,Σ[k=1,∞](-1)^k (logk)/k の値を求めることにしよう.
ここで,ディラックのイータ関数η(s) を導入する.
η(s)は,ゼータ関数ζ(s)=Σ[k=1,∞]1/k^s の交代級数である.
η(s)=Σ[k=1,∞](-1)^(-k-1)/k^s
をs で微分すると
η'(s)=Σ[k=1,∞](-1)^k (logk)/k^s
となるので, s=1とすればいいことがわかった.
Σ[k=1,∞](-1)^k (logk)/k=η'(1)
したがって③は,
∫[0, ∞] (logx)/(1+eˣ) dx=-γlog2+η'(1)・・・④
と表現できる.
早速, η'(1) を求めよう.
η(s)=1-2^(-s)+3^(-s)-4^(-s)+5^(-s)-・・・
=(1+2^-s+3^-s+・・・)-2(2^-s+4^-s+6^-s+・・・)
=ζ(s)-2・2^(-s)(1+2^-s+3^-s+・・・)
=ζ(s)-2^(1-s)ζ(s)
=(1-2^(1-s))ζ(s)
であるので,
η(s)=(1-2^(1-s))ζ(s) が成り立つ.
両辺をs で微分すると
η'(s)=2^(1-s)(log2)ζ(s)+(1-2^(1-s))ζ'(s) ・・・⑤
ここで,s=1 を代入してしまうと
ζ(1)が出てきてしまって,ゼータ関数はs=1では,値がもとまらない(特異点)であるので,
s=1 の周りでローラン展開したゼータ関数を使うことにする
すなわち,η'(1) を求めるにあたって,⑤の式の右辺のsの関数
2^(1-s) と ζ(s) と ζ'(s) は,すべてs=1の周りで級数展開すればいい.
ζ(s)=Σ[k=1,∞]1/k^s をローラン展開すると s=1 が1位の極であるので,
ζ(s)=1/(s-1)+c₀+c₁(s-1)+c₂(s-1)²+・・・=1/(s-1)+c₀+o(s-1)
という形になる.
よって,
ζ'(s)=-1/(s-1)²+c₁+2c₂(s-1)+・・・=-1/(s-1)²+c₁+o(s-1)
一方、2^(1-s) は,s=1の周りでティラー展開する.
2^(1-s)=(log2)(s-1)-1/2!(log2)²+1/3!(log2)³-・・・
これらを ⑤に代入すると
η'(s)={(log2)(s-1)-1/2!(log2)²+1/3!(log2)³-・・・ }(log2){1/(s-1)+c₀+o(s-1)}
+{1-(log2)(s-1)+1/2!(log2)²-1/3!(log2)³+・・・}{-1/(s-1)²+c₁+o(s-1)}
になるが,これを展開すると 1/(s-1) と1/(s-1)² の項はなくなって,
η'(s)=-1/2(log2)²+c₀(log2)+o(s-1)
という形になる. s=1のとき
η'(1)=-1/2(log2)²+c₀(log2)
になる.
したがって,c₀ を求めればいいことがわかった.
c₀は,
ζ(s)=1/(s-1)+c₀+c₁(s-1)+c₂(s-1)²+・・・ より
lim[s→1](ζ(s)-1/(s-1))=c₀ ・・・⑥
を計算することによって得られる.
このc₀ を求めるにあたって,
ゼータ関数が s≧0 において解析接続された形式を使おう.
* ζ(s)=Σ[k=1,∞]1/k^s は,s>1 で定義された関数だから,s≧0 では使えない.
他の文献もしくは下のリンク先から得られた
ζ(s)=1/2+1/(s-1)-s∫[1,∞](x-[x]-1/2)x^(-s-1)dx
というゼータ関数を使う.
https://ameblo.jp/titchmarsh/entry-12152695272.html 参照
⑥より
lim[s→1](ζ(s)-1/(s-1))=1/2-lim[s→1]{s∫[1,∞](x-[x]-1/2)x^(-s-1)dx}
c₀=1/2-∫[1,∞](x-[x]-1/2)x⁻²dx
であるので,
∫[1,∞](x-[x]-1/2)x⁻²dx
を求めればいい.
∫[1,∞](x-[x]-1/2)x⁻²dx
=∫[1,∞](1/x)dx-∫[1,∞][x]/x²dx-(1/2)∫[1,∞]1/x²dx
=lim[x→∞]logx-∫[1,∞][x]/x²dx-1/2
そこで
∫[1,∞][x]/x²dx を計算しよう
[x]はガウス記号で,
x=1→2 のときは,[x]=1
x=2→3 のときは,[x]=2
x=3→4 のときは,[x]=3
・・・
であるので,
∫[1,∞][x]/x²dx
=lim[n→∞]∫[1,n][x]/x²dx
=lim[n→∞]{∫[1,2][x]/x²dx+∫[2,3][x]/x²dx+∫[3,4][x]/x²dx+・・・+∫[n-1,n][x]/x²dx}
=lim[n→∞]{∫[1,2]1/x²dx+2∫[2,3]1/x²dx+3∫[3,4]1/x²dx+・・・+(n-1)∫[n-1,n]1/x²dx}
=lim[n→∞]{Σ[k=1,n-1]k∫[k,k+1]1/x²dx
=lim[n→∞]{Σ[k=1,n-1]k{-1/(k+1)+1/k}
=lim[n→∞]{Σ[k=1,n-1]1/(k+1)
=lim[n→∞](1/2+1/3+1/4+・・・+1/n)
よって
∫[1,∞](x-[x]-1/2)x⁻²dx
=lim[x→∞]logx-∫[1,∞][x]/x²dx-1/2
=lim[n→∞]logn-lim[n→∞](1/2+1/3+1/4+・・・+1/n)-1/2
=-1/2-lim[n→∞](1/2+1/3+1/4+・・・+1/n-logn)
=-1/2-lim[n→∞](1+1/2+1/3+1/4+・・・+1/n-logn)+1
=1/2-lim[n→∞](1+1/2+1/3+1/4+・・・+1/n-logn)
=1/2-γ
よって
c₀=1/2-∫[1,∞](x-[x]-1/2)x⁻²dx
=1/2-(1/2-γ)
=γ
よって ⑥の c₀はγと一致するので
η'(1)=-1/2(log2)²+γlog2
となった.
以上より ④より
∫[0, ∞] (logx)/(1+eˣ) dx=-γlog2+η'(1)
=-γlog2-1/2(log2)²+γlog2
=-1/2(log2)²
という結果が証明できた.
見た目は簡単そうな積分であり,その値もシンプルであったが,ゼータ関数やイータ関数やガンマ関数や
ゼータ関数の解析接続したものや、ゼータ関数のローラン展開 等の知識がないと解けないということがわかった。
もし、もっと簡単なやり方があったら教えてください。
詳しい計算経過は以下をみてください 分子が x^n(logx) の場合も書いてます。
https://drive.google.com/file/d/1iIKlbE9qgCipKZLMklHHKZ2cUTUkcpeg/view?usp=sharing
<2020/8/14 追加>
新しい解法が見つかったので追加します。
この解法でも、最後に イータ関数の微分 η'(s)=Σ[k=1,∞](-1)^k (logk)/k^s
s=1 の値 を使ってます。