第七章 四日目・島 その2 | 弐位のチラシの裏ブログ

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 今日の十角館の殺人はどうかな?


 遅い昼食を済ませると、5人はそろって青屋敷の焼け跡へ向かった。
 建物があったと思われる100坪ほどの地面は、灰と瓦礫で黒く覆いつくされている。
 J崎が見える屋敷跡西側の断崖は、それほど高くない。敷地の周りの待つが途切れていて短い小道を作り、崖下の岩場に降りるための細いコンクリートの階段へと続いている。
 彼らはその崖の上に立ち、島に近づく船の姿を探し始めたのだが、そこから離れて独り灰と瓦礫の中を歩き回っている者がいた。エラリイである。
 「何やってるんだい、エラリイ」
 大声でヴァンが問うた。エラリイは顔を上げて笑って見せ、
 「探し物さ。おや」
 呟いてエラリイは、真っ黒に汚れた一枚の板切れに手をかけた。
 焼け落ちた壁の一部らしく、ところどころに青いタイルが残っている。思い切って力を込めると、意外に軽く持ち上げることができた。
 「あったぞ」とエラリイは歓声を上げた。
 そこには、四角い穴が黒々と口を開いていた。コンクリートの狭い階段が闇に向かって延びている。
 エラリイは持ち上げた板を反対側に押し倒した。用意してきた懐中電灯を上着のポケットから取り出すのももどかしく、穴に足を踏み入れる。
 「気を付けろよ」
 ポウが心配げに声をかける。
 「分かってるさ。大丈・・・」
 返事が、ふっと途切れた。と同時に、エラリイの身体がぐらりと傾く。「うわっ」という短い悲鳴とともに、そのまま彼は闇の中に倒れ込み、吸い込まれるようにして消えてしまった。
 「エラリイ!」
 「エラリイ?」
 「エラリイさん?」
 「大丈夫か、エラリイ」
 4人が口々に叫んだ。
 ヴァンが飛び出して、エラリイのあとを追おうとする。
 「待て、ヴァン。飛び込むのは危険だ」
 ポウが軽く制した。
 「でも、ポウ」
 「俺が先に立つ」
 ポウはジャケットのポケットを探り、小型のペンライトを取り出した。注意深く穴の中を照らしながら、階段に足を下ろす。
 「エラリイ」
 呼びかけるが、答えはない。窮屈そうに上体を屈め、2段ほど進む。そこで彼は、はっと立ち止まった。
 「こいつは・・・テグスが張ってあるぞ。これに足を取られたんだな、エラリイの奴」
 ちょうど大人の向う脛くらいの高さだった。左右の壁を這う何かのパイブの間に、よほど目を凝らしてみなければ気づくまい、細くて丈夫な糸が張り渡されているのである。
 ポウは慎重にそれを跨ぎ越すと、やや動きを進めた。
 「ヴァン、ルルウ、来てくれ。テグスに気をつけてな」
 階段を降り切ったところに、エラリイは倒れていた。
 「おいエラリイ、大丈夫が」
 コンクリートの床に這いつくばったまま、エラリイは弱弱しい声で「大丈夫だ」と答えた。が、すぐに「ううぅ」と呻いて、右の足首を抱え込む。
 「足をくじいたらしい」
 まもなくヴァンとルルウが降りてきた。
 「手を貸してくれ」と2人に銘じて、ポウがエラリイの腕を取る。
 のろのろと身を起こしながら、エラリイが言った。
 「僕は大丈夫だから、この、地下室の様子を検めてくれないか」
 ルルウがポウから懐中電灯を受け取り、ぐるりと周囲を照らした。
 地下室は畳敷きにして10数畳分の広さがあった。四方の壁も天井も剥き出しのコンクリートで、その上をパイプが何本も走っている。
 4人が立つ階段の昇り口付近から、半径2メートルほdの円弧を描いた部分、そこには他の場所に散乱しているようながらくたが一つも落ちていない。しかも妙な事に、積もっているはずの灰や埃までが、その円弧の内側にはほとんど見られないのである。
 「どうだい。あまりに不自然だろう。まるで掃き清めた跡みたいじゃないか」
 エラリイは蒼ざめた顔に、場違いとも思える微笑みを浮かべた。
 「誰かがいたんだよ、ここに」