〝会社を辞めよう〟
俺は、確実にそう思い始めていた。
真砂という人間が自分の中に侵入してきていることを自覚したからだ。
俺は、「あの家から逃げてきた」
そして、自分を知らない場所で生きていこうと思った。
でも…
時が経つにつれ、
仕事を通して
人に触れ、感情に触れ
そして
真砂一郎という人間に出会い、
訳の分からない感情が自分に入ってきた。
不愉快なような
淋しいような
暖かいような
とにかく、処理にさえ困るような代物なのだ。
見たことも、聞いたことも、感じたとこさえない
この感情を常に身にまとっている生活は
なんというか…
つらい。
今の仕事を辞めて、生活はきっと困窮するだろうが
1人で生きていくには最低限のものがあればいい。
元々、贅沢や欲求にあまり興味がないのだ。
ただ、ずっと願っていたこと。
「あの家をでて、自由になりたい」
1人になって、困ることや苦しいことがあっても
1度、自由に空を仰いでみたい。
俺は今それができるのだ。