最近、倉庫の仕事の流れや
正社員にしかできない、仕入れ検品や返品、伝票入力も
少し任されるようになった。
あいも変わらず、力仕事やスピードは皆に敵わないのは確かなのだが。
「はよー」
背後から真砂さんの挨拶?が聞こえる。
「おはようございます」
俺は仕事を続けながら、真砂さんと顔を合わせず朝の挨拶をした。
しかし、肩を叩かれ話しかけられる。
…朝の倉庫は忙しいの知ってるのに…
やや不機嫌気味に
「なんですか?」
「前っちさー、朝の挨拶くらいちゃんとしようよー」
「しましたし。それに狩野さんたちだってこんなもんですよ!倉庫は朝の朝礼免除されるくらい
忙しいの真砂さんも知ってますよね?」
「うん、知ってるよー」
「でも、その調子で違う部署行ったら困るのは前っちだから言ってんの。」
「違う部署?」
「そうそう。まさか家電量販店が倉庫だけで成り立ってるとは思ってないよね?」
「はい、まぁ。」
「ザックリ分けても、レジ・売り場・品出し・ソフトコーナー・法人とあるわけよ」
真砂さんが指折り、数を数える。
「あと事務所業務もあるけどココはエライ人たちで回ってるから当分前っちには関係ないかなー」
…えっと、頭に一気に知らない情報が…
「真砂さん、つまり俺は将来的にその多くの部門の仕事を網羅しなくてはならないのですか?」
…少し想像しただけで冷や汗が…
「まぁ、網羅ってよりアレだ」
「つまりは最下層である倉庫は試しの門。
倉庫の仕事もまともにできないやつは
研修取り消しもありえるわけだ」
…それってクビ??…
「おい、前っち。顔青いぞー大丈夫かぁー」
…あああ、真砂さんの声が遠くに…
「お前、今早まった思考してるだろ?」
「何の為に研修生に正社員がついてると思う?」
「仕事教えて、簡単にクビにさせない為だろうがー」
…そっか、とりあえずよかった…
体の中の青い血液が引くのを感じる。
しかし、そこで真砂さんの1言が。
「まぁ、俺は前っちの査定員でもあるわけだから
仕事ができなかったり、ミスしたりしたらそれを上に報告する義務もある。」
「つまり、俺のサジ次第で前っちに〝サクラチル〟か〝サクラサク〟の結果がでるんだけどね♪」
…真砂さん、あんたって…
俺だって、簡単な覚悟で家を出てきたわけじゃない。
こんな人のサジ次第で、おん出されるのは嫌だ!
しかし、ここは感情的になったら負けだ。
「分かりました。ご指導、ご指南の程、宜しくお願いします。」
あからさまな丁寧な物言いで真砂さんに宣戦布告したつもりだった。
しかし…
「おー春まで頑張ろうな!」
…おいっ!!…
この人、春まで。〝まで〟っていったよ?!!
糞。
悔しいけど、ここで戦意喪失して適当な仕事して
春を待つのは自分が許せない。
結果、どうなろうと
俺には戻る場所がない。
だったら、やるしかない。
のん気に喫煙所に向かったであろう真砂さんを無視して
俺は忙しい倉庫に気持ち、ダッシュした。